乱流の新しい計測方法を開発! 点ではなく線でとらえる新発想

 乱流
らんりゅう
とは、流体
りゅうたい

みだ
れのことで、その規則性
きそくせい
を数学的にとらえることが
むずか
しいカオスな存在
そんざい
です。

 具体的な事例は、身近にたくさんあります。例えば、座礁
ざしょう
したタンカーから
れ広がった原油
げんゆ
拡散
かくさん
、飛行機を
らす乱気流
らんきりゅう
などがあります。水道の蛇口
じゃぐち
から出る水の流れや、川の流れも乱流です。乱流の動きを予測することができれば、海洋汚染
かいようおせん
最小限
さいしょうげん
に食い止めることができ、飛行機が乱気流に

まれるのも防げるでしょう。

 このたび、沖縄
おきなわ
科学技術大学大学院(OIST)、イタリアのジェノバ大学、スウェーデン王立工科大学(KTH)、スイス連邦
れんぽう
工科大学チューリッヒ校は、国際共同研究
こくさいきょうどうけんきゅう
によって、これまでなかったような、新しい乱流の計測方法を開発しました。

 通常、乱流を計測するには、流体にトレーサーと呼ばれる小さな粒子
りゅうし
を投入し、その動きを追跡
ついせき
する方法がとられました。しかし、流体は数多くの小さな
うず
の集まりとして動いているので、1つの粒子を観測
かんそく
しただけでは渦全体の姿はわかりません。重要なことは、追跡粒子が近くにある別の追跡粒子とどのように影響
えいきょう
しあって動いているのかということです。しかし、渦全体の動きを追跡しようとすると、計算が膨大
ぼうだい
になりすぎてしまいます。

さまざまな規模
きぼ
で渦が発生している乱流。(画像/OIST)

 乱流の計測が難しいもうひとつの理由は、渦は時間の経過
けいか
とともに拡散
かくさん
していってしまうことです。渦が拡散していくと粒子どうしの間隔
かんかく
が広がっていき、互いに影響を
およ
ぼし合うことがなくなりますから、渦の計測はできなくなってしまいます。この課題に対しては、追跡粒子の数を増やす方法があります。しかし、そうすると、渦の流れが粒子によって乱されてしまい、正確に計測できなくなるおそれがあります。

 そこで考え出されたのが、追跡粒子の代わりに繊維
せんい
を使う方法です。繊維はかたいため、両端
りょうたん
を一定の距離
きょり
に保ったまま、乱流の動きを追跡することができるので、乱流の全体的な構造
こうぞう
把握
はあく
できると考えたのです。

 研究チームは、さまざまな長さの繊維を乱入に投入するコンピューターシミュレーションを行いました。そして、流体の運動エネルギーが渦から渦へと伝達し、最後は熱エネルギーに変化していく様子も正確に計測することができました。

 点から線へという逆転の発想で新しいひらめきを得た斬新
ざんしん
な研究といえるでしょう。今後は、かたい繊維だけではなく、
やわ
らかい繊維も使って検証
けんしょう
を進める予定とのこと。また、通常
つうじょう
のニュートン流体(水やアルコールなど)以外に、非ニュートン流体(マヨネーズやバターなど)の乱流についても計測できるような新しい理論
りろん
を探っていくそうです。

白鳥 敬 著者の記事一覧

サイエンスライター。1953年、富山県生まれ。成蹊大学文学部卒。出版社の編集者を経て、科学技術分野の執筆活動を行なっている。自然科学から工学まで幅広い分野が対象で、航空分野にはとくに造詣が深い。

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