VRやゲームなどの新しい技術を若手研究者がオンライン発表!「インタラクション2021」レポート②

 3月10・11・12日の3日間、完全オンラインで開催された一般社団法人情報処理学会の第25回シンポジウム「インタラクション2021」のレポート第2弾です。KoKaが注目した研究を選んで、3回に分けて紹介していきます。

インタラクション2021レポート①

VRで重さの違いを感じられる?

 「手モデルの変形がバーチャル物体の重さ知覚に与える影響」大阪工業大学

 バーチャル空間で、視覚的に重さの違いを感じることができるのか。このテーマを追及するために、外力が加わると変形する弾性ハンドモデルを使って実験しました。弾性ハンドモデルとは、通常の手の3Dメッシュモデル(細かなメッシュに分割して滑らかな動きを実現しているモデル)のメッシュを粒子に置き換えて、変形をわかりやすくしたものです。

 被験者にVR映像を映し出すヘッドマウントディスプレイを装着させ、手にコントローラーを持たせて、ボールを上方に投げます。手のひらに落ちてきたときの弾性ハンドモデルの変形の大きさから、重さの違いを識別できるかどうかを実験しました。

 ボールの見かけは同じ大きさですが、マススケール(重さのパラメータ)を変えてあり、重いボールを受け止めた時ほど、弾性ハンドモデルの手が大きく変形するように設定してあります。

 マススケール10・20・30・40の4種類の重さのボールを用意し、弾性ハンドモデルを用いて変形の大きい順に並べさせたところ、10名の被験者のうち7名が、最も重いボールと最も軽いボールを識別することができました。弾性ハンドモデルの変形から重さの違いを知覚できることが明らかになったといえます。

 今後、研究チームは、物体に触れたときの貼りつくような感覚についても調べていきたいと考えているそうです。VR空間でリアル世界と同じような触覚を獲得することは、現在のVR技術の大きな課題の一つですが、そのヒントになるかもしれない優れた研究だと思います。

誰もがネコと遊べる!人とペットをつなぐコミュニケーションツールne-connect

「人と留守番中の猫をマッチングして両者が遠隔で遊べるシステム」宮城大学

 一人で留守番中のネコのことが心配になることがありますね。webカメラで遠隔監視をするシステムはすでにありますが、これではネコにとっては何のメリットもなく、飼い主の方も見るだけでははがゆいものです。

 このたび提示されたシステムは、ただ監視するだけでなく、遠隔でいっしょに遊んだり、コミュニケーションをとったりできるものです。特に注目すべきポイントは、飼い主以外の誰もが、通りがかりに知らないネコと遊ぶように使えるという点です。

 このシステムは、ne-connect(ネコネクト)というもので、次のようなデバイスから構成されています。ネコに合いたい人を留守番ネコにつなぐマッチングツール、ネコ用のもぐらたたき型おもちゃ、スマホに取りつけるしっぽデバイスの3つです。

 まず、飼い主が留守番するネコをネコネクトに登録します。ネコと遊びたい人は、ネコネクトの画面から遊びたいネコを選び、マッチングを開始。好みのネコが決まったら、スマートフォンを操作してネコ用もぐらたたきおもちゃを操作。もぐらが動くのを見てネコがじゃれると、それに合わせてしっぽデバイスが揺れます。このしっぽデバイスがあることで、ネコと人が双方向でコミュニケーションしながら遊ぶことができるのです。

 しっぽデバイスはサーボモーター(一定の角度だけ軸を回転させるモーター)を内蔵していて、これでしっぽを動かします。また、スマホにはBlynkというIoTデバイスコントロールツールがインストールしてあり、これを利用して、遠隔にいるネコの動作をしっぽの動きとして伝えます

 もぐらたたき型おもちゃの上面中央にはカメラがついていて、ネコがじゃれるようすをスマホで見ることができます。そのため、リアルな感覚でネコと遊ぶことができます。このカメラは低い視野だけが映るようになっているため、飼い主のプライバシーが侵害されることはありません

 留守番中のネコと誰もが双方向で遊べるというところが素晴らしいと思います。いろいろなペットにも対応できるし、防犯やセキュリティー方面でも活用できるかもしれません。

2台のロボットのおしゃべりで、ネットショップの買い物が便利になる!?

「購入者のレビューを用いた2体のロボットによる会話的情報提供システム」筑波大・楽天技術研究所

 通販サイトには購入したユーザーのレビューが書いてあります。これを利用して、2台のロボットに会話をさせて、商品の情報を提示しようというシステムです。

 まずは、楽天の通販ショップに行って商品を選びます。そのページのURLをこのシステムにコピーすると、2台のロボットがレビューの内容をもとにして会話を始めるというものです。一方のロボットが解説を行い、もう一方のロボットはあいづちを打つように設定してあります。ロボットの動作は、解説をする方のロボットは商品を指さしたりするような動作を多くし、相方はうなずくようなしぐさをするように設定してあります。

 会話のおおまかな流れを示すシナリオは開発者が用意。それに基づいて2台のロボットが会話を進めていきます。商品レビューのテキストを通販サイトのサーバーから取り込み、それを会話風に変換してしゃべらせています。

 なぜ2台のロボットに会話をさせるのでしょうか。それは、オーバーハードコミュニケーションという心理学的効果が期待できるからです。

 人は他人の噂を気にするもので、他人の評判、いわゆる口コミを聞くことで宣伝効果が増大されます。他者である2台のロボットがしゃべってくれることで、より効果が高まるというわけです。2台のロボットの会話がけっこう自然な感じで聞けたのが印象的でした。また、ロボットをCGに置き換えることも検討中ということです。

白鳥 敬 著者の記事一覧

サイエンスライター。1953年、富山県生まれ。成蹊大学文学部卒。出版社の編集者を経て、科学技術分野の執筆活動を行なっている。自然科学から工学まで幅広い分野が対象で、航空分野にはとくに造詣が深い。

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