VRやゲームなどの新しい技術を若手研究者がオンライン発表!「インタラクション2021」レポート①

 一般社団法人情報処理学会の第25回シンポジウム「インタラクション2021」が、3月10・11・12日の3日間、完全オンラインで開催されました。

 インタラクションとは、人と機械・ソフトウエアなどの人工物が互いに働きかけることをいいます。例えばバーチャルリアリティー(VR)の中で、人と仮想現実にあるものが会話したり、行動したときに反応を返したり、互いに影響を与え合うような技術のことです。

 シンポジウムでは、最先端のインタラクション技術を研究している日本中の大学や研究機関の研究者がオンライン上で集まって、日ごろの研究成果を発表しました。発表件数は約180件。特に注目したいのは、大学の学部生や大学院生などの若手研究者が中心となって発表を行っていたところです。そのため、既存の枠にとらわれない、新鮮な挑戦をする発表がたくさんありました。

 それらの発表の中から、KoKaが注目した研究を選んで、3回に分けて紹介したいと思います。

黒板に文字が書きやすくなる! 板書ガイドライン

「黒板への筆記に合わせてガイドを表示する板書支援インタフェースの研究」 東京学芸大学

 電子黒板の普及が進んでいますが、まだ昔ながらの黒板も小中学校で広く使われています。黒板に正確に文字や図形を書くことは、特に新任の若い先生にとっては難しいものです。そこで、黒板上に書き方のガイドとなる線をプロジェクターで投影できるようにしたのがこの研究です。

 この研究の優れているところは、最初の1本の線を書いたときに、次に書こうとしているものをきれいに書けるよう、それに合わせたガイドラインを表示してくれるところです。

 全体のシステムは、黒板の画面を撮影するWebカメラ、ガイドを黒板に投影するプロジェクター、制御用のパソコン・操作端末から構成されています。

 黒板上に線を1本書くと、三角形・四角形・円などの図形に対応できるガイドラインが黒板に表示されます。板書した線の位置と傾きは自動的に判別され、その線に合わせてガイドラインが表示されます。文字の場合は、光学文字認識技術によって検出され、横書きを始めたら横方向に、縦書きを始めたら縦方向にガイドラインが表れて、文字の大きさや間隔を揃えて書くことができるようになります。

 黒板に書く図形や文字をきれいに、正確に書くことができるようになりますから、授業がぐっとわかりやすくなることでしょう。

動画の再生速度を速くして見ると、その後の計算が速くできる?

「動画の再生速度が視聴後の作業速度に与える影響」 奈良先端科学技術大学院大学

 動画の再生速度を変えて視聴した後、人間の行動はどう変化するかという興味深い研究です。いったいどうなるのでしょうか。

 研究グループは、スマートグラスを被験者につけてもらい、通常より速い動画と遅い動画を見せて、視聴後の作業時間に与える影響を測定しました。

 これまで、被験者に通常より速く進む時間感覚を与えながら同時に何らかの作業をさせると、作業速度が速くなることが知られていました。研究チームは、動画視聴中ではなく視聴後に作業をしてもらい、その行動になんらかの影響が出るかどうかについて調べました。

 スマートグラスが普及してくると、通学や通勤中に動画などの情報を閲覧する機会がさらに増えてきます。作業を加速するような情報を事前に見ておけば、その後の作業の効率が向上するはずです。

 実験は被験者18人にスマートグラスを着用させ、スロー(0.5倍速)・ノーマル(1.0倍速)・ファスト(1.5倍速)の3種類の速度のどれかの動画(商店街の路上を人が大勢歩いている映像)を3分間視聴(音程は維持)してもらい、その後3分間の計算タスク(簡単な足し算と引き算)を行わせました。

 結果は、動画の再生速度と、その後の計算課題で回答できた計算の数に有意な関係があったといいます。また、再生速度の違いによる効果は動画視聴直後だけでなく、時間が経過しても続いていることも示されました。

 視聴する動画の再生速度が速いほど、その後の作業速度も速くなるのなら、仕事や勉強の効率を上げるのにも使えそうですね。

VRでの視覚刺激が触感に与える影響とは?

「VR空間での視覚刺激が着座時の触感に与える影響の分析」立命館大学大学院・立命館大学

 VRはずいぶん普及してきましたが、まだまだ感覚的なものをうまく再現することはできず、なにかギクシャクした感じがするのは否めません。

 研究チームは、柔らかなソファーに座ったときの感覚を再現するためには、どのようなVR映像が効果的かを検証しました。チームが注目したのは、ソファに座ったときの腰の沈み込みに合わせて変化する視線の動きです。

 そこで、沈み込みの深さと視線の移動率、および沈み込みとともに視点が回転し後方に移動する値もパラメータとして取り込み、ソファの柔らかさを仮想的に感じることができるVR映像を探ってみました。

 実験では、被験者が装着したVRヘッドセットOculus Questに、パソコン上のUnity(VR映像開発ツール)で作成した映像を送信し、ヘッドセットが装着された頭部の位置の姿勢の変化を判定して、被験者の目に映る映像と動作の関係を調べました。

 硬い椅子に座ってもらい、視点の沈み込みの深さ、および視点移動率を各3種類と、変化のないパターンの計10パターンを3回繰り返し、全部で30回の試行を13名の被験者に体験してもらいました。そして、座面の柔らかさと違和感の感じ方について、それぞれ7段階にわけて答えてもらいました。

 実験の結果、沈み込みが深いほど、また視点移動速度が遅いほど、硬い座面でも柔らかくなったように感じました。また、現実とかけ離れた映像になると強い違和感を感じるようになることもわかりました。

 次に、背もたれに力を加えたとき(反り返る行動)に柔らかさを提示する実験を行いました。

 被験者に椅子に座ってもらい、背もたれにかかる力に応じて、仮想的に背もたれが回転するように視点を後方・下方へ移動させました。実験の結果、視覚の変化を見せることで背もたれが柔らかくなったように知覚することができ、30度くらいの回転角度のときに自然な柔らかさを提示できることがわかりました。

 この実験手法による運動と感覚の解析は、ベッドに横たわったときの柔らかさや、トランポリンで跳ねたときの弾力を提示するときなどにも応用が可能なのではないかと研究者は考えています。

白鳥 敬 著者の記事一覧

サイエンスライター。1953年、富山県生まれ。成蹊大学文学部卒。出版社の編集者を経て、科学技術分野の執筆活動を行なっている。自然科学から工学まで幅広い分野が対象で、航空分野にはとくに造詣が深い。

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