《子供の科学 深ボリ講座》宇宙生命体を見つけるさらなるヒント

『子供の科学2023年8月号』の「アストロバイオロジー」特集では、さまざまな手法で宇宙にいるかもしれない生命の発見に挑む研究者の皆さんを取材しました! 今回は本誌では紹介しきれなかった、第二の地球探しの秘訣と次世代の望遠鏡を紹介します。

取材協力/アストロバイオロジーセンター 写真/前田 立

プラネットハンティングの注目は小さな赤い星

国立天文台の中にあるALMA棟でお話を聞いてきました。

本誌では、国立天文台キャンパス内にあるアストロバイオロジーに特化した「アストロバイオロジーセンター」の研究者のみなさんを取材しました。系外惑星探査プロジェクト室の平野照幸さんは、生命が存在しているかもしれない太陽系外惑星(ハビタブル惑星)を探す研究をしていて、実際にハビタブル惑星をいくつも発見しているプラネットハンターです。

今回お話をしてくれた、系外惑星探査プロジェクト室の平野照幸さん

平野さんによると、見つけやすいのは銀河の約70%を占めると考えられている低温で小さい恒星「赤色矮星」をまわる惑星だといいます。太陽系の場合は公転周期が365日の地球から火星付近までの範囲が太陽からほどよく離れていて水が液体で存在できる「ハビタブルゾーン」にあたりますが、太陽よりも小さく、温度が低い赤色矮星のハビタブルゾーンに相当するのは惑星の公転周期が約10日から20日の範囲だと考えられています。

ハピタブルゾーンのイメージ図。恒星から程よく離れていて、惑星の表面に液体の水が存在できる気温が保たれている軌道領域のこと。太陽系では地球から火星付近がハピタブルゾーンの範囲に含まれている。(イラスト/NOY)

 こうした惑星を宇宙望遠鏡が観測した系外惑星の候補の情報を手掛かりにして探す場合は、惑星が恒星を一周する間に起きるシグナルを捉えて、その惑星が本当に存在していることを確認します。例えば、平野さんが2022年に発見した赤色矮星をまわる2つの惑星のうち、外側を公転する「LP 890-9c」の公転周期は約8.46日で、ハビタブルゾーンに位置していることがわかりました。LP 890-9cは公転周期が短いので、恒星を4、5周する間観測を続けて、シグナルを捉えるのに2カ月しかかかりません。「私たちが生きているうちに見つけやすくて有利なので、赤色矮星に注目をして観測を行っています」と平野さんは教えてくれました。

平野さんが発見した、赤色矮星「LP 890-9」の周りを公転する2つのスーパーアース(惑星)のイメージイラスト。手前にある惑星が、ハピタブルゾーンに存在している「LP 890-9c」。もう1つは、赤色矮星の奥に見える惑星「LP890-9b」。(©NASA/JPL-Caltech)

MEMO 恒星と惑星の名前
太陽系外惑星は、中心天体の名前の後ろに小文字のアルファベットb,c,d・・・を順番に付けて呼びます。例えばLP 890-9は中心天体でLP 890-9bは惑星です。通常、内側から(中心の星に近い)順番にb,c,dと名前がつけられますが、例外もあります。

望遠鏡の大きさと役割

 アストロバイオロジー研究で重要な役割を果たしている望遠鏡。一口にいっても、いろいろな種類があり、口径(反射主鏡の大きさ)が8.2mもある「すばる望遠鏡」のような大型の望遠鏡もあれば、岡山の天文台に設置されている口径が188cmの「188cm反射望遠鏡」など小型の望遠鏡もあります。

すばる望遠鏡(©国立天文台)
188cm反射望遠鏡(©国立天文台)

 では、大型望遠鏡と小型望遠鏡はどのように使い分けられているのでしょうか。平野さんによると、口径が1mから2mクラスの小型望遠鏡は、惑星の候補の情報はなしで、とにかくいろいろな星に向けて観測を行い、系外惑星を探す「サーベイ」に使われることが多いといいます。この場合は観測データを蓄積するのに長い期間が必要で、赤色矮星をまわる惑星でも見つけるのに1、2年ほどかかるそうです。

今回お話をしてくれたアストロバイオロジー装置開発室の高橋葵さん

 本誌でお話を聞いたアストロバイオロジー装置開発室の高橋葵さんが今まさに開発中の装置「近⾚外ドップラー分光器(SAND)」を取り付ける、口径1.8mの「PRIME望遠鏡」も小型望遠鏡に分類されます。PRIME望遠鏡は、南アフリカ共和国のサザーランド観測所に設置されている大阪大学の望遠鏡です。高橋さんは「PRIME望遠鏡は観測の時間が十分に確保できますし、SANDは公転周期が長い系外惑星の観測を得意としています。中心星から少し遠い惑星も発見できるのではないかと期待しています」と語ってくれました。

 一方、8mから10mクラスの大型望遠鏡は、系外惑星が発する細かいシグナルを観測するのに使われます。このシグナルからは、系外惑星の軌道や大気の情報などを読み取れます。そんな大型望遠鏡を使いたい研究者は大勢いるため、観測時間を確保する競争率はとても高いのだとか。系外惑星の研究をしている日下部展彦さんは、「比較的短い観測時間で、多くの観測成果を出せるように工夫しています」と話しました。

今回、アストロバイオロジーセンターの案内をしてくれた、アストロバイオロジーセンター特任専門員の日下部展彦さん。

次世代の望遠鏡で第二の地球の姿がわかるかも

現在、日本・アメリカ・カナダ・中国・インドが共同で建設計画を進めている口径30mの超大型望遠鏡「TMT」は、系外惑星のシグナルを捉えるだけでなく、直接の撮影に挑戦する予定です。ハビタブル惑星を直接撮影できれば、海や陸地、植生があるかどうかわかるといいます。

TMTイメージ図。(©TMT International Observatory)

 地上に設置されている望遠鏡はもちろん、宇宙に打ち上げられた望遠鏡も活躍しています。地上の望遠鏡は地球の大気の影響を受けて、手ぶれを起こしているようなぼやけた観測データになってしまいます。しかし、望遠鏡を宇宙に打ち上げれば地球の大気の影響がないため、きれいな観測データを得られます。

 NASAのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、酸素など惑星に生命がいる証拠「バイオシグニチャー」を観測できるのではないかと期待されています。将来的には、宇宙望遠鏡と明るすぎて惑星の観測を遮ってしまう恒星を隠す衛星をセットで動かして、ターゲットのハビタブル惑星の姿だけを直接撮影する「フォーメーションフライト」も実現するかもしれません。ただし、フォーメーションフライトは、宇宙望遠鏡と衛星の位置を精密に制御しなければならないので、実現させるためには技術開発が必要です。大型の望遠鏡の登場や技術の進歩により、そう遠くないうちに第二の地球が見つかる日が来るかもしれません。

井上榛香 著者の記事一覧

宇宙開発や宇宙ビジネスを専門に取材・執筆活動を行うフリーライター。小惑星探査機「はやぶさ」の活躍を知り、宇宙開発に関心を持つ。学生時代は、留学先のウクライナ・キーウで国際法を学んだ。共著に『from under 30 世界を平和にする第一歩』。

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