《コカデミア カガクノ英語》 第9回 カイギュウの進化の道すじ

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今回のトピック

カイギュウ類の進化の道すじについて新たな知見

 人魚のモデルともいわれるジュゴンは、日本では沖縄の海にのみ生息しています。絶滅が心配される動物で、ニュース番組で紹介されることもありますね。ジュゴン、そしてその近縁種マナティーは、カイギュウ類に分類される哺乳類です。今回は、このカイギュウの進化にまつわるニュースを紹介します。このニュースは「コカトピ」2022年11月号に掲載しました。まずはニュースの内容をみてみましょう。

 カイギュウ類は海に棲む哺乳類で、現生種はジュゴン1種とマナティー3種の合計4種のみです。草食動物で、海草が生えるような暖かくて浅い海を好みます。カイギュウ類の最古の化石は約4800万年前のもので、その後に、種が多様化し、生息域が広がったため、南極大陸を除くすべての大陸で化石が発見されています。しかし、その進化の道すじには、多くの謎が残されています。
 このほど、デューク大学(アメリカ)などの研究グループは、カイギュウ類の祖先が、暁新世(約6600万年~約5600万年前)の後期に、ヨーロッパ南部とアフリカ北部の間にあったテチス海で誕生したことを明らかにしました。この研究では、現生種に加え、56種の化石種や近縁な現生哺乳類から、遺伝情報や形態、生息地などのデータが集められて、その進化の道すじが調べられています。たとえば、マナティーの直接の祖先が南アメリカ大陸で進化し、比較的最近になってカリブ海や北米沿岸へ移動したことなど、面白いことがたくさんわかりました。

 この記事の元になった論文のタイトルは「Total evidence time-scaled phylogenetic and biogeographic models for the evolution of sea cows (Sirenia, Afrotheria)」です。ざっくりと訳すと「カイギュウ(sea cows)(海牛目 Sirenia, アフリカ獣上目 Afrotheria)の進化(evolution)に関する時間スケールの系統学(time-scaled phylogenetic)および生物地理学(biogeographic)に基づく全証拠によるモデル」といった感じになります。

 やや難しいタイトルですが、形態的な特徴や遺伝情報などを、現生種も絶滅種も含めた全証拠(total evidence)に基づいて、進化の道すじ(系統)を推定しました、という論文です。使える情報を全部まとめて分析に用いたわけです。

ここに注目① sea cows

 まずは、以下のセンテンスをみてみましょう。

The mammalian order Sirenia, commonly called the sea cows, includes only four living species.

 このセンテンスを訳すと「一般に(commonly)カイギュウ(sea cows)と呼ばれる、哺乳類(mammalian)のカイギュウ目(海牛目:order Sirenia)には、現生種(living species)は4種しかいない」といった意味になります。

 希少な動物として注目されることが多いカイギュウ(海牛)は、ここでわかるように、英語では一般に sea cowと表現されます。seaが海、cowが牛ですから、日本語と同じですね。これを誤って「ウミウシ」と訳すと、軟体動物のウミウシを指すことになり、まったく別の生き物になってしまうので注意しましょう。ちなみに、ウミウシは一般的に sea slug と表されます(slugはナメクジを指す言葉です。ウミウシは英語では「海のナメクジ」なんですね)。

 現在、地球上に生息しているカイギュウ類は合計4種です。その内訳は、ジュゴン科ジュゴン属のジュゴン(dugong)が 1種と、マナティー科マナティー属のマナティー(manatee)が3種です。ジュゴンとマナティー は水中で生活し、前脚がヒレになり、後ろ脚は退化して胴体に隠れています。それぞれ、どのような特徴があるのか、調べてみると楽しいですよ。

ここに注目② extinction

 次に、以下のセンテンスをみてみましょう。

Steller’s sea cow was last reported alive in the middle of the 18th century but has since been hunted to extinction.

 ざっくりと訳すと「ステラーカイギュウ(Steller’s sea cow)は、18世紀中頃に生存が報告されたのを最後に(last reported alive in the middle of the 18th century)、その後、狩猟により絶滅(extinction)した」といった意味になります。

 聞いたことがある人も多いと思いますが、ジュゴン科のステラーカイギュウという大型のカイギュウは、狩猟により絶滅してしまいました。体が大きく動きがゆっくりだったこともあり、狩猟によりどんどん捕獲されてしまったのです。ヒトが原因となって生じる絶滅は悲しいですね。

 さて、絶滅(extinction)とは、生きている個体が存在しないことです。絶滅してしまった種は、絶滅種(extinct species)といいます。また、絶滅種のうちで、化石だけしか知られていない種は化石種(fossil species)といいます。

 それに対して、生きている個体が存在する種のことを現生種(living species)といいます。ここに注目①のセンテンスにも使われていた用語ですね。現生種は、extant species や modern species と表現することもあります。

絶滅種 extinct species
化石種 fossil species
現生種 living species (extant species, modern species)

 現生の生き物たちは、長い進化の道すじの中で生まれてきました。興味のある生き物について、extant species と extinct species、そして fossil species をひっくるめて眺めてみると、世界が広がりそうですね。

参考論文 
タイトル
Total evidence time-scaled phylogenetic and biogeographic models for the evolution of sea cows (Sirenia, Afrotheria).
著者S. Heritage & E.R. Seiffert
論文情報
PeerJ (2022) 10: e13886.
https://doi.org/10.1038/s41598-022-10743-6


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保谷彰彦 著者の記事一覧

文筆家、植物学者。博士(学術)。主な著書は『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』(誠文堂新光社)、『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(ともに、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。 http://www.hoyatanpopo.com/

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