《コカデミア カガクノ英語》 第6回 ウツボカズラは名ピッチャー?

英語の科学トピックを読み解きながら、科学と英語の知識を学ぶ一挙両得の新コーナーへようこそ。背景知識とともに英単語を知ることで、言葉の深みを味わおう!

今回のトピック

地中に捕虫袋をもつウツボカズラを発見!

 食虫植物のウツボカズラは、壺状の捕虫袋で昆虫などを捕まえます。今回は、その捕虫袋を地中につけるウツボカズラが発見されたというニュースを紹介します。このニュースは、「コカトピ」2022年9月号でも掲載しました。まずは論文の内容を紹介しましょう。

 食虫植物ウツボカズラは,葉の先端に壺状の捕虫袋をつけます。そこに落ちた獲物は消化されてウツボカズラの栄養源になります。ウツボカズラの仲間は、世界に160種以上が知られていて、おもに東南アジアの熱帯・亜熱帯に分布しています。
 このほど、パラツキー大学オロモウツ(チェコ)などの研究グループは、ボルネオ島のインドネシア・北カリマンタン州で、地中に捕虫袋をもつ新種のウツボカズラを発見しました。地中に補虫袋をつけるウツボカズラは、世界で初めての発見です。
 新種のウツボカズラは、捕虫袋を地上にもわずかにつけるものの、大部分は地中につけていました。地中の捕虫袋5つと地上の捕虫袋1つから見つかった獲物は、40種1785個体の無脊椎動物。主に地中に生息するダニや甲虫、アリ、さらに蚊の幼虫、線虫、環形動物などでした。このように、地中の捕虫袋にはエサを捕る働きがあったのです。
 この新種の生育地は山地で、標高1100~1300mの乾燥した尾根沿い。乾燥した環境では、湿度などが安定している地中のほうが、多くのエサを捕れるのだろうと研究グループでは考えています。

 この記事のもとになった論文のタイトルは「First record of functional underground traps in a pitcher plant: Nepenthes pudica (Nepenthaceae), a new species fromNorth Kalimantan, Borneo」です。直訳すると、「ウツボカズラ(pitcher plant)での機能的な地中トラップの最初の記録:ボルネオ島北カリマンタン産の新種ネペンテス・プディカ Nepenthes pudica (ウツボカズラ属 Nepenthaceae)」となります。

ここに注目① pitcher plant

 論文には次のような一節が出てきます。

Nepenthes pudica produces almost exclusively underground pitchers that are well developed and fully functional.

 直訳すると、「ネペンテス・プディカ(Nepenthes pudica)は、ほぼ例外なく(almost exclusively)、よく発達した十分に機能する地中ピッチャー(underground pitchers that are well developed and fully functional)をつくります(produces)」となります。

 ウツボカズラがもつような壺状の捕虫袋のことを「pitcher」といいます。「ピッチャー(pitcher)」というと、野球のピッチャー、投手を最初に思い浮かべるかもしれません。そのほかに「pitcher」には、取っ手と口がついた「水差し」という意味があり、植物学では植物が持つ捕虫袋のことを指す言葉でもあります。食虫植物のうち、壺状の捕虫袋を持つウツボカズラやサラセニアの仲間は pitcher plants と表現されます。論文のタイトルにも出てきますね。

 pitcher plants の捕虫袋はふつう地上にできますが、この研究で、ウツボカズラで地中の捕虫袋が世界で初めて発見されました。そこで、この論文では、地上の捕虫袋はaboveground pitcher 、地中にできる捕虫袋は underground pitcher と表現しています。地中では土の圧力がかかるので、地中の捕虫葉は地上のものよりも丈夫にできているようです。

ここに注目② carnivorous plant

Nepenthes pudica is the first carnivorous species confirmed to use pitfall traps specifically in the subterranean environment.

 こちらの一節はざっくりと訳すと、「ネペンテス・プディカ(Nepenthes pudica)は、土の中の環境に特化した(specifically in the subterranean environment)落とし穴型わな(pitfall traps) を使うことが確認された(confirmed to use)初めての食虫植物(the first carnivorous species)です」となります。

 動物は、食べるエサの種類によって、サメやワシなどの肉食動物 carnivore 、ウシやシロアリなどの草食動物 herbivore 、クマなどの雑食(性)動物 omnivore に分けることができます。

肉食動物 carnivore
草食動物 herbivore
雑食(性)動物 omnivore

 上に引用した文章にある 「carnivorous」 はcarnivoreの形容詞の形で、「肉食性の」という意味があります。肉食動物は、carnivore や carnivorous animal と表現することができます。その一方で、carnivorous plant といった場合は「肉食植物」ではなく、「食虫植物」と訳されます。carnivorous という単語を植物に使うときには、「食虫性の」という意味があるのです。

 食虫植物はおもに昆虫をエサにしますが、昆虫以外の無脊椎動物をエサにする種も多いので、肉食植物という表現は、意外に実態に合っているようにも感じられます。とはいえ、生物学では、肉食植物という用語は使われないので、carnivorous plant は「食虫植物」と訳しましょう。

 ウツボカズラの捕虫袋は、実によくできています。たとえば、捕虫袋の内側や入口のあたりから蜜が分泌され、その蜜に誘われて昆虫たちが捕虫袋に集まります。ところが、捕虫袋の口の部分や内壁は滑りやすいので、昆虫たちは、消化液が満たされた壺の中に落ちやすくなっています。このように、ウツボカズラの捕虫袋は「落とし穴型わな」 pitfall traps として働きます。そのため、上の文章にあるように pitfall traps という用語がよく使われます。まさに名ピッチャー、というところでしょうか。

 昆虫などの動物をエサにする食虫植物には、ほかの植物にはない、特殊なしくみが備わっています。知れば知るほど楽しい食虫植物ですが、次はどのような発見があるのでしょうか。さらなる研究に期待が高まります。

 

 

参考論文 
タイトル
First record of functional underground traps in a pitcher plant: Nepenthes pudica(Nepenthaceae), a new species from North Kalimantan, Borneo
著者
Dančák M. et al.
論文情報
PhytoKeys (2022) 201: 77-97.
https://doi.org/10.3897/phytokeys.201.82872


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文筆家。博士(学術)。主な著書は『生きもの毛事典』(文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(ともに、あかね書房)、『タンポポハンドブック』(文一総合出版)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)、『身近な草花「雑草」のヒミツ』(誠文堂新光社)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。 http://www.hoyatanpopo.com/

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