《子供の科学深ボリ講座》日本で“電車”が発達したワケ

『子供の科学』2022年10月号の特集「日本の鉄道ヒストリー」では、動力システムの進歩や、昔から変わらない技術を詳しく紹介しました。ここでは、日本の鉄道の主力となっている「電車」について、深く掘り下げます。

日本の鉄道車両の4分の3は電車

 全国には6万4189両の車両が活躍しています(2020年3月31日現在)。車両には機関車や電車、ディーゼルカー、客車、貨車とさまざまな種類があるなか、最も多いのは電車です。4万9665両と、車両全体のおよそ4分の3を占めています。

 電車とは、外から取り入れた電力または車両に搭載した電池の電力でモーターを動かして走る車両です。近年、電池で動く電車が現れましたが、ほぼすべての電車は外部から電力の供給を受けて走っています。どこからかと言うと、車両上空に張りめぐらされた架線から、または走行用レールの外側に敷かれた送電用のレールからです。

 もう1つ、電車には大きな特徴があり、車体には人を乗せる客室や、荷物や貨物を載せる荷物室または貨物室が付いています。電力で走る車両のなかには、車体が走行用の機械で埋めつくされた車両もあります。このような車両は電気機関車と呼ばれ、動力をもたない客車や貨車を多数引いて走るのが特徴です。

 これだけ両数が多いので、身近な鉄道の車両と言えばたいていは電車だと考えて構いません。大都市ではJRや私鉄の通勤車両のほぼすべて、それに地下鉄の車両は皆電車ですし、JRや私鉄の特急列車の大多数にも電車が用いられています。新幹線の車両は電車以外になく、9月23日に開業の西九州新幹線向けに用意されたN700S系ももちろん電車です。

ディーゼルカーより電車が多い理由

1.電車はエネルギー効率がいい

 今日の鉄道車両用の動力源には大きく分けてモーターとディーゼルエンジンとがあります。ディーゼルエンジンで走り、車体に客室や荷物室、貨物室を設けたディーゼルカーも全国各地を走っていますが、その数は2657両と電車の20分の1ほどしかいません。

 なぜこれだけ差がついているのでしょうか。ディーゼルカーは主に利用者が少ない路線に用いられているので、電車よりもどうしても数は少なくなってしまいます。いま挙げた点も含めて、電車はディーゼルカーと比べてたくさんの長所を備えているからです。

 電車はエネルギーの効率がディーゼルカーよりも高いという特徴を備えています。古い話ですが、電力や軽油といったエネルギーに対して車両がどのくらい走ることができたかというエネルギー効率をいまのJRの前身の国鉄が1970年代に測定したところ、電気で走る車両は26パーセント、ディーゼルエンジンで走る車両は25パーセントでした。差は1パーセント分しかありませんが、何しろ鉄道の車両は寿命を迎えるまでに500万km以上も走るので、大きな違いとなって現れます。

2.排気ガスを出さず、整備もラク

 ほかにも挙げますと、ディーゼルカーは排気ガスを出しますが、電車は出しません。さらに、ディーゼルエンジンは機械の部分が多いので整備が大変で、検査のたびに摩耗した部品を取り替える必要があります。でも、最新型のモーターには摩耗する部分がほとんどがないので、整備の手間はあまりかかりません。最も過酷に用いられる新幹線の電車のモーターでさえ、1年間の走行距離である20万km~40万km程度であれば分解して検査しなくても何事もなく走ります。

 単にスピードを出すだけでしたらディーゼルカーも負けてはいません。実際にJR在来線の特急列車のなかで平均速度が最も速い列車に用いられていた車両がディーゼルカーであったときもあります。けれども、新幹線のように時速200kmもの超高速で走るとなりますと、電車以外に考えられません。日本だけでなく、世界中の高速鉄道も電車が大多数を占め、一部に電気機関車が用いられている程度です。

JR西日本のキハ187系ディーゼルカーで運転されている特急「スーパーいなば」。キハ187系の最高速度は130km/hと、JR在来線用の中では最速の車両の1つだ。電車と比べて不利な面が多いが、ディーゼルカーは架線のないところはもちろん、架線のあるところでも走行可能だ。(画像提供/梅原 淳 2020年12月7日撮影)

3.エネルギー源を搭載しなくていい

 電車とディーゼルカーとの最大の違いは何でしょうか。それは走行に必要なエネルギーを搭載しているかどうかです。電車はエネルギーとなる電力を外部から供給される限り、どこまででも走っていけます。新幹線のうち、東海道・山陽新幹線を直通する「のぞみ」のなかには東京-博多間を1日に1往復半と、3000km余りを走り抜く車両もあるほどです。

山陽新幹線の博多駅に到着した東京発の「のぞみ」には、N700AまたはN700Sと呼ばれる電車が用いられている。ホームには車内整備の担当者が待ち受けており、短い時間で折り返して約1100km先の東京駅を目指す。(画像提供/梅原 淳 2018年5月22日撮影)

 一方でディーゼルカーは、ディーゼルエンジンを動かすためのエネルギーとなる軽油を積んで走らなくてはなりません。できる限りたくさん載せたいところですが、スペースに限りがあるために、1両当たり1000リットル程度が限界です。最高速度時速120km前後で走るJR在来線の特急列車ですと1000kmくらい走行可能ですが、「のぞみ」のように3000km走らせたいとなると1日に2回給油しなくてはなりません。

 もしもディーゼルエンジンなどの機器が小さくなって軽油をたくさん積めるようになったとしても、速く走るのは難しいでしょう。1000リットルの軽油の重さは大体1トンくらいに達し、タンクも含めると重さは2トン近くになります。3000リットル搭載するとなると6トン近く重くなってしまうのです。

 でも、電車でしたらエネルギーを積む必要がありません。ディーゼルカーと比べて1両につき少なくとも2トン近く軽くなるのです。言うまでもなく、車両を速く走らせるには車両の重さが軽いほうが有利ですから、新幹線に用いられる車両は電車なのです。

日本の国土に適しているのが電車

 電気で走るのならば、新幹線に使用する車両は電気機関車でもよいのではと思った人も多いでしょう。実際にフランスの高速鉄道TGVでは電気機関車が用いられています。

 実は電車はモーターを各車両に分けて積んでいるので、たくさん連結すればするほど列車としての総出力は大きくなるのです。東海道・山陽・九州・西九州新幹線を走るN700A、N700Sと呼ばれる電車のモーターの出力は1基305kWで、1両に4基搭載されています。先ほど例に挙げた「のぞみ」は16両編成を組み、うち14両がモーター付きの車両なので総出力は1万7080kWとなるのです。

 16両編成の「のぞみ」と同じ出力をもつ電気機関車をつくることはできます。けれども、重くなりすぎて新幹線の線路を走ることはできません。車両を支えられる重さは1両に4軸付いている車軸1軸当たりの重さで決まります。新幹線ですと車軸1軸につき16トンと決められていて、1両の重さは最大64トンです。でも、出力1万7080kWもある電気機関車の重さはどう少なめに見積もっても200トンは下りません。

 新幹線の線路をもっと頑丈に改めればよいのではと思いますが、火山国の日本は地質が悪く、あまり強くはできないのです。海外の高速鉄道の線路の多くは地質のよい岩盤の上に敷かれているので、そう苦労せずに重い車両を走らせられます。

 まとめますと、電車はエネルギー効率が高く、環境に優しく、給油の必要もなく軽量で高速走行にも適しています。その反面、車両に電気を供給するための設備を用意しなければならず、完成後もメンテナンスの手間を要します。また、電気機関車と比べてモーターを搭載した車両が多いので、やはり日常の保守作業は大変です。それでも欠点よりも長所のほうがはるかに多く、何よりも日本の国土に適しているので、電車はここまで普及したのだと言えるでしょう。

(文・写真/梅原 淳)

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鉄道ジャーナリスト。書籍の執筆や雑誌への寄稿を中心に、講義・講演やテレビ、ラジオなどでも活躍中。主な著書に『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『国鉄色車両ガイドブック』(坂正博、栗原景と共著/誠文堂新光社)など。

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