「動くガンダム」テクニカルディレクター石井啓範さんにインタビュー! ~ヒトが乗って動かすロボットがつくりたい~

「動くガンダム」を背景にして立つテクニカルディレクター、石井啓範さん。©創通・サンライズ

『子供の科学』2022年9月号で紹介した「動くガンダム」特集は見てくれたかな? たくさんのカッコイイ写真とともに、横浜で公開されている「動くガンダム」のヒミツに迫っているよ。特集の中では、「動くガンダム」の技術を取りまとめた「GUNDAM GLOBAL CHALLENGE」テクニカルディレクター、石井啓範(いしい・あきのり)さんのインタビューも紹介。ここでは誌面で紹介しきれなかった石井さんご自身のキャリアについて語ってもらいます!

PROFILE/
GGCテクニカルディレクター 石井啓範さん
早稲田大学で等身大ヒューマノイド「WABIAN」を研究開発。日立建機入社後は双腕作業機アスタコなど建機ロボット開発に従事。 2018年からGGCに参加、動くガンダムを設計。現在は人が乗れる4m級ロボも開発中。

誰かがやらないとプロジェクトが頓挫するかも…と思った

────「動くガンダム」のために大企業を辞め、テクニカルディレクターを務められている石井さんのキャリアは、とても夢のある生き方に見えます。プロジェクトに参加されるまでにどういう経緯があったのでしょうか。

 もともとガンダムは好きでした。それでロボットをやってみたいと考えて早稲田大学に進み、人型ロボットの「WABIAN(ワビアン)」をつくって歩かせていました。でも私はガンダム世代なので、「乗って動かしたい」という気持ちがありました。自分が乗って動かすロボットをいつかやりたい。でもそれをやっているメーカーはなかったので、技術スキルが得られるところはどこかなと考えました。

 あとは、1人で広い範囲を見る仕事がしたいと思っていました。1人で1台まるごと全部見られるほうが自分には向いていると。1つのことを突き詰めて論文を書くよりは、広く浅くロボットのことを知っていて、1台まるごとつくれるようになるために、守備範囲が広いメーカーを探しました。それで就職先は建設機械メーカー(日立建機)を選びました。

────ところが、このプロジェクトのためにその会社をお辞めになった。それは、このプロジェクトにかけるためですか?

 それは半々です。最初は勤めていた会社に「動くガンダム」制作のリクエストがあったんです。でもマーケットが違うのと、全体像が決まっていなかったので、会社として仕事を受けるのはちょっと難しいという話になりました。

 ですが私は気になっていたので、個人的に、週末に有識者が集まる会に参加させてもらっていました。そこで、2017年の夏に『機動戦士ガンダム』の富野由悠季監督も参加されるような大きな会議がありました。そのときにいろいろなメーカーが「参加したい」と手を挙げていたけれど、技術的に全体をまとめるプロジェクトマネージャーがいなかったんです。誰かプロジェクトを専業とする人が立たないと、このプロジェクトは頓挫してしまうかもしれない、という雰囲気を感じました。そして、そこに個人で自分が入れば、今までの延長でまとめられるイメージが持てました。この「動くガンダム」のプロジェクトが頓挫するのはもったいない、それに自分が協力できるなら……という気持ちがありました。

 もう1つは、他の人がこのポジションに収まってしまうと私が参加する余地がなくなる。いま空いてるこのタイミングがいいチャンスなのだなと思ったので、会社を辞め、参加しました。

横浜で公開されている高さ18mの「動くガンダム」。©創通・サンライズ

ものづくりは1人ではできない

────今回のプロジェクトのプロデューサーである株式会社バンダイナムコフィルムワークス(旧:株式会社サンライズ)の志田香織さんは、石井さんを起用した理由の1つとして「まわりの意見を聞きつつ、自分の持てる力を発揮し、自分がわからないことはちゃんと”わからない”と言えそうな人だと感じていた」とおっしゃっていました。

チームで大きなプロジェクトを動かしていくには、人とうまくやっていく力も必要だとお考えでしょうか?

 それはめちゃくちゃ必要です。若いころは必要ないと思っていたんですが、今はめちゃくちゃ必要だとわかります。実際に作業が進んでいくと、いろいろな人と関わらないといけないんです。ものづくりは絶対に1人ではできないので。

 1つの分野を深く掘っていって、研究して、論文を書いて、というのもありです。ですが、ものをつくることは自分だけじゃできません。いろいろな業者さんにも入ってもらい、協力してもらうことが必要不可欠です。僕が図面を書いたとしても組み立てるわけでもないし、プログラムを書くわけでもない。かといって、「やっておいて」と投げっぱなしでもダメで、「こうしてほしい」ということは言わないといけないし、向こうがどういう課題を持っているかも提示してもらわないといけない。気難しい職人さんともうまく話して、ちゃんと組み立ててもらわないといけない。だからコミュニケーションは必要です。

プライベートでは3人のお子さんのパパでもある石井さん。「動くガンダム」の動きを研究するため、石井さんがしゃがむ姿をお子さんに写真に撮ってもらったりしたのだとか。

自分が乗って、動かせるロボットをつくりたい

────今後、石井さんはどんなロボットを目指したいのですか?

 かっこいいロボットをつくっていきたいです。「動くガンダム」に限らず、やっぱり乗って動かすロボットをやりたい。この「ガンダム」も大きくてかっこいいけれど、本当は自分が乗って動かしたいんです。

 だから今回も頑張ってコクピット部分をつくりました。そこは僕の中で必須だったので、フレームを計画した段階で、その中に穴を空けました。「こんなに大きな穴があって大丈夫か」とかなり心配されたが、意外と大丈夫です。建設機械も意外と穴が空いています。コクピット内にはシートもあって、デザインされてます。中に人が入った状態では動かさないですが、実際に乗ってみたこともありますよ。……高すぎて怖かったですね。やっぱり、倒れたらどうにもならない高さなんです。宇宙空間ならいいかもしれないですが。

────石井さんにとっては、建設現場のクレーン車も「乗って動かせるロボット」という発想ですか?

 そうです。建設機械は乗って動かすと楽しいですよ。人が乗れてかっこいいロボットをつくるために、2021年の夏に自分で会社もつくって、今プロトタイプを設計しているところです(下記参照)。楽しみにしていてください。

●ツバメインダストリ株式会社
https://tsubame-hi.com/
●搭乗型ロボット「アーカックス」
https://twitter.com/tsubame_hi/status/1504496784990621701

「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」の外観。©創通・サンライズ

【イベント概要】
GUNDAM FACTORY YOKOHAMA
●公式ホームページ/https://gundam-factory.net/
●開催期間/2023年3月31日(金)まで
●営業時間/時期により変更する場合がありますので、公式ホームページをご確認ください。
●入場料金/小人(7歳以上12歳以下)1100円(税込)、大人(13歳以上)1650円(税込)
●GUNDAM-DOCK TOWER観覧料/小人(7歳以上)・大人3300円(税込)、6歳以下は大人1名につき3名まで無料
※演出は毎時20分、45分

撮影/川上秋レミイ

取材・文

森山和道 著者の記事一覧

サイエンスライター。1993年に広島大学理学部地質学科卒業後、NHKにディレクターとして入局。1997年以降はフリーライターとして科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。専門は脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。WEB:http://moriyama.com/
Twitter:https://twitter.com/kmoriyama
著書:ロボットパークは大さわぎ! (学研まんが科学ふしぎクエスト)

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子供の科学 2024年 5月号

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