わくわく理科授業 第6回 おにぎりがうんこになる道 キミはわかる?

「子供の科学(8月号)」のわくわく理科授業では,石川県小松市立犬丸小学校の粟生義紀先生の授業を紹介しました。「もっともらしい説明をするM-1」と「本当のことらしいを説明するH-1」 という活動を通して,小学校6年生で学ぶ消化と吸収のしくみを深掘りしていく楽しい授業でした。ここでは誌面で紹介した授業を粟生義紀先生にさらに深掘りしていただきます。

粟生先生が理科の授業で大切にしていること

粟生義紀(あお・よしのり)
石川県小松市立犬丸小学校
大阪市公立小学校教員8年、大阪教育大学附属天王寺小学校にて7年間務め、2019年より石川県能美市、小松市で小学校教員を8年間務め、現在に至る。子供自信が他者と関わろうとして自己調整的に学ぶことのできる学習環境のデザインに関心を寄せて活動中。2024年発刊TAKT授業のデザイン参照。

 子供が分かっていないことを分かる授業ということは、いつも心がけていることです。子供たちの「やってみよう」から自然事象との関わりをもち,「分かっていないことが分かる」ように、こちらの声かけや教材の提示を工夫した単元構成というのはいつも考えてはいます。こちらから提示するオーソドックスな教科書通りの問い、それでは子供は一つ一つの活動を教師の提示を待つものとしてしまいかねませんので,子供たちが活動したいと思えるような問いを立てるようにしています。

 また,「わからん」がちゃんと言える環境がとても大切だと思っています。子供が分からないと言えた時,そのことをみんなで追究したり、他の子どもたちに「わからないって言っているけど何か説明できそうかな」と促したりするようにしています。

 黒板は子供が考えるためのツールです。教師が教えるために書くだけではなくて、黒板は,子供が自分の考えや気づき,疑問をデザインするための伝えるツールです。授業中に私(粟生先生)は黒板の方に行っていないような場面がいっぱいあります。黒板に子供が疑問や考えを書き出していきながら,子供と共にアイディアを共有していく。その時に「先生、こんなんが欲しい」って言われたら、すぐにそれ確かめたり一緒に用意したりしていく,という授業が多いです。

 本気になる子供を常に応援することが大事だと思っています。そこにかける時間は他とは違うというか、子供たちが納得していくことを大切にした授業にしていくことが多いと思います。そこでは,違いや批判を喜べる学びの風土をつくっていくことも大切ですね。

 「子供の科学8月号」の誌面で紹介した授業でも、子供が周りの友達に途中でアイデアを求める場面がありました。これ言われたら相手はどう思うとか,これで説明になっているのか、というのを友達同士で聞き合って、分かりにくいと言われたら「ありがとう」と言えるような風土が大事です。批判されるのを嫌がるような授業にならないようにするのは,これからのグローバルな社会で生きていく子供の育成に向けて必要だと思っています。

 そして,周りの人の役に立つこと、何のために学ぶのか、誰のために学ぶのかということなどに関心を持って取り組める授業にしていくことを大切にしています。真面目に言うとこんな感じです(笑)。

「人の体のつくり」の授業をデザインする

 誌面で紹介した授業の「人の体のつくり」は,食べ物の通り道や呼吸はどのようなしくみでどう働いているのかを学びます。ここで一番大切にするのは、一個一個の知識を覚えるんじゃなくて、つながり合いが見えてくることです。そして,子供が調べてみたいと動き出せるようにすることです。

 自分の体の中のことは実験できないので調べることが中心になりますが,どうしたらおもしろくなるかなと考えて,「昔々あるところにおにぎりさんがいました。」と黒板に書き始めることにしました。黒板に人の形とうんこが出てくるところを書いて,「こうしてこげ茶のうんこが生まれましたさ」。これを書いた後,子供たちが「え、なんで茶色になってるの」「白いのどうなったん」と気づき出して,「そんなの考えたこともなかった」「じゃあ白いお米だけ食べて黒くなるって、どういうことなん」という問いが立てられていきました。

授業の板書。まず、黒板の左端「はじまり」、右端に「おわり」を書いて、授業がスタート。

 この学習では「食べ物はどこを通るのだろうか」みたいな問いを立てる実践が多いのですがが,今回は「わたしのうんこ製造機はどうなっているのだろうか」という問いからスタートしています。自分の体のことをうんこ製造機と示したことは子供の文脈の中でガッツリ腑に落ちた展開になったと思います。

 予想では昔話をつくるようにして,「まずは口に入るから歯だよね」というようなことを子供が口々に言っていました。「おにぎりさんが口の中に入れられ,そこで上下の歯によって噛み砕かれました」みたいなことから,この後どうなるかをみんなが調べてながら予想が始まりました。ノートに書いたり、スライドにまとめたり、自分なりの方法でやっていきます。その時の私(粟生先生)は,子供たちの様子を見ながら、「こんな言葉がキーワードになるみたいだね」「このこと書いてるのは、一人だけ?」「〇〇さんはこんなのも関係あるって言ってるけどどう思う?」と子供の考えを全体に伝えていきます。時には「こんなの関係あるかあ??」ととぼけてみたり、、、そんな会話をしている中で、「溶けている。一遍溶かすっていうんだったら、もうこれ全部おしっこで良くない」みたいな子供の名言が出てくるのでそれを全体に伝えていくと,その考えを取り入れていく子も出てきて、「本当に分かってないっていう状況が分かってきたな」「考えたこともなかった」ということを自覚し始めながら色々な予想を立てていきました。

 体の中を書いてみましょうって言われて書かされるよりも、体の中がどうなってるか書いてみたいっていうようなことが授業のポイントで,今回の授業でも、自分のはてなとして解決していく活動に誘えたかなと思っています。

「M-1」と「H-1」の開催

 独創的に考え,互いに学び合うことを大切にしたい,というコンセプトから「M-1」「H-1」が始まりました。「M-1」もっともらしい1グランプリで,問題解決の過程では予想や仮説にあたります。いろいろな予想を出して自分たちの考えを明らかにする,そのことを本当かどうか確かめていき,本当のことらしい1グランプリ「H-1」をしていきます。「H-1」は考察にあたりますね。

誰が一番もっともらしいことを言えるかを競う「M-1」グランプリ。

 M−1では,どれだけもっともらしいことを言えるのか、というところに子供たちは意識が向いていきます。ここでは実際の発表を紹介します。

 


「昔むかしあるところに,おにぎりさんがいました。おにぎりさんはおにぎりを食べました。歯ですり潰されました。唾液でちょっと溶かされました。それで,胃に行きました。おにぎりは胃酸で液体になってしまいました。それで腸に行きました。腸でいるものを吸収,水分とか養分とかを吸収して、残ったのは、茶色い液体になってしまいました。茶色い液体でここ(肛門)まで行きました。ここまで来て,おにぎりさんは、まだ出るのが早いと言って、うんこが固まるのを待ちました。2時間後ぐらいになったらスポッとおにぎりだったものが出てきて,こうしてうんこが生まれまたとさ。
M-1グランプリでのプレゼンの様子。

 黒板に書いた始まりと終わりの間を考えることで、どんなはてなが生まれるかということを意識して子供が発表しながら、ちょっとずつまとめていくことを通して,みんなで楽しくそれぞれの考えを聞いていく活動になりました。子供は説明することを通して,吸収や消化という言葉が出てきても、内臓のどこが何をしているのか分かっていないとか,描いた図ではまだ分かっていない、ということが明らかになっていきます。

 「体の中を描いてみましょう,でも描けないよね」から始まる授業もあります。「描けない自分、どうなっているんだと不安になる自分」という場面に出会うことは大事だと思っていますが、できないことが分かっていて、描かされるのって、少ししんどくないですか? それならば説明してみたいと思う中で説明するために図を使いながら,“もっと知りたいというように前向きに表現していける、そのようにしたいと思います。黒板に書かれたどの図も、「それ違う」という否定的な言葉でのやり取りにはならずに、お互いに子供が考えや意見を聴き合えるようにすることもポイントだと思っています。唾液で湿らしているのは理由があるはずだ、茶色になるのは茶色以外の成分が抜かれているんだ、金とか何かが混ざってきて茶色になってるんじゃないのか、などの「はてな」が出てくる,それぞれの考え方の違いがそこで色々と現れてくることが大切です。

 お尻のところでカチカチになっていると考える子供がいました。H-1では,水分を大腸が取っていくのでカチカチになる、という、本当のことらしいことに変わっていくんですけど,自分たちがどこまで分かっていて、何が分かってないかっていうのが、M-1での説明の中からたくさん出てきました。

 M−1では,予選会というわけではありませんが,グループごとに自分らで聞き合って、「この子の話、すごい分かりやすかったよ」というのを自分たちから推薦したり、本人がしゃべりたいっていう子が出場して,もっともらしい説を発表していきます。決勝戦では6人が話してみたいとなりました。その前のグループの話し合いでは,グループから1人選ばれることもあれば、0人だったり2人だったり、また、どうしても僕はみんなの前で話したいっていう子は話してもよい、というようにしています。こうして,自己決定と自己選択をする機会をつくることで安心して学習に取り組む環境になるようにしています。

 もっともらしいだけじゃ理科じゃない、だったら、“本当のところに向かう”ということで「H-1」が始まります。H-1に向けた問いづくりでは、M-1の資料とか話し合ったことを振り返っていきました。「人の体の中のことを分かってないな」、「何があってどう働いてそんな茶色になってるんだ」,そして,茶色くなることにフューチャーしたうんこに対する問い,この3つの問いを子供と一緒につくっていきました。

H-1に向けた「問いづくり」のときの黒板。

 その後は子供たちが自由に調べていきました。教科書や人体模型,インターネットで調べていく中で「唾液ってこんなんしているらしいですよ」などを子供が黒板をメモ代わりにしていきながら情報を共有していきます。「茶色くなるのはステルコビリンっていうのが大事らしい」とある子が言い出したら,みんなが「ステルコビリンってなんやねん」となって調べだしたりする。小学生のレベル超えるかもしれないですけど、知識がつながりだしたことで,子供たちはすごく楽しそうにしていました。

本当のことらしさを競う「H-1」グランプリ。

M-1 に出場した子がH-1 で発表した内容

「おにぎり回戦」
昔、昔、あるところに、おにぎりさんがいました。まず、おにぎりさんは、おにぎりを取り出しました。おにぎりさんは、とてもうれしそうに、おにぎりを口にほうばりました。もぐもぐ、もぐもぐと言って、おにぎりを歯で噛み出しました。そしたら唾液が出てきて、胃でスムーズに消化できるように、でんぷんをアミラーゼで分解し、糖に変えていきました。そうして喉を通って胃に行きました。
胃では胃酸で食べ物をドロドロに溶かして液体にしました。おにぎりさんは食べ過ぎていたので、今の十二指腸に全部は送らず、胃でちょっとだけ食べて、残ったのは十二指腸に送りました。次に十二章に来ました。十二指腸では、肝臓からの肝汁、膵臓からの膵液をおにぎりだったものを混ぜ合わせました。肝汁の働きは脂肪を水に溶けやすくする効果です。膵液は、 デンプン,タンパク質,脂肪を分解する消化酵素があります。
次に、 十二指腸から小腸に来ました。小腸では、水分や栄養を吸収していきます。胃から運ばれてきたドロドロ、十二指腸でした胆汁、膵液を混ぜ合わせたおかげで、スムーズに吸収されました。次に、大腸に来ました。大腸では、小腸で吸収されなかった残りカスを便として出すために、 12~24時間で水分やミネラルを吸収し、排出しやすい便の硬さにしました。そんな苦労を乗り越えて、やっとこげ茶のうんこが出てきました。こうしてたくさんの場所でおにぎりが姿を変えて戦ってきました。
これからもずっと体を、変わって栄養になり、戦ってくれると思います。めでたしめでたし。
H-1でのプレゼンの様子。

 発表を聞いている子供たちが「こういうところがいいよね」と言い合っていたり,「ここ分からなかった」と逆に言えるようなこともしたり,1位を決めるっていうことよりは、この活動自体が新しいものを教えてくれるということを意識しながら勉強してくれているがとても良かったと思っています。

 子供たちが感動していたのは、再利用ですかね。胆汁っていうのが、転職っていうのがすごく感動したっていう話で、役目亡くなった血液が胆汁になってまた助けてくれて、それを「遺産を守ろうと最後までしてくれている」と話していました。最初の白から茶色になる理由っていうのをその辺で納得しつつ,「吸収された栄養どうなるのかっていうのは違う物語が始まりそうだね」という話になり、吸収された栄養はどこに行くのかということを次から調べていきましょうということになりました。

粟生先生の思いと願い

 子供が自分たち同士でつながり合う,自己調整的に学びながら責任をもって取り組むことができるなど,これからに必要な非認知能力というものも考えながら,教授的な授業で子供の心に残らない理科の授業にはしたくないといつも思っています。学んだことは理科室では使えるけど学校の門を出たら何も考えない,というような子供たちにはなってほしくないです。

 そして,子供の学びを先生の手柄にするというより,子供が自分たちの手柄にしてほしい,お互いがありがとうって言えるような関係を授業でつくりたい,と日々考えています。

野原先生の注目ポイント①:「わからないと言える学習環境」

 粟生先生は「子供がわかっていないことをわかる授業づくり」を日々行い,子供が安心して「わからない」と言える学習環境をつくりあげています。これは「わかったつもり」になってほしくない,表面的な理解に留めたくない,という粟生先生の意図が含まれています。

 断片的な知識や事実を並べるのではなく,「なぜそうなるのか」「どうつながっているのか」を説明する知識を概念的知識と言います。消化・吸収の仕組みやプロセスは,口・胃・小腸・大腸など,それぞれの臓器の役割とそのつながりによるものです。粟生先生の授業ではこれを教科書や資料から記憶するのではなく,「おにぎりがうんこになる道は?」という問いを立てることで子供が消化・吸収を自分の体の中で起きていることと捉えながら概念的知識をつくりあげていく様子が見えました。「自分は何がわかっていないのか」に気づけるような粟生先生の声がけや教材提示の工夫や,子供の「やってみたい」を引きだす問いの設定の工夫がなされていることがポイントです。

 また,子供が安心して「わからない」と言える学習環境をつくりあげています。これは粟生先生自身が授業を楽しみながら,子供の要望に即応的に準備したり必要なものは試作したりするなど,学習環境を柔軟に整えることによって,子供の安心感を促していると言えます。子供の本気と粘りを常に応援し,授業時間を機械的に打ち切らないで,子供が納得するまで取り組めるような学習環境にしている点も見逃せません。

野原先生の注目ポイント②:「M-1とH-1」

 もっともらしい1グランプリ「M-1」,本当のことらしい1グランプリ「H-1」は,非常にユニークな取り組みでした。理科では問題解決や探究の過程を軸とした授業デザインが求められていますが,「M-1」は予想・仮説,「H-1」は考察にあたります。遊び心のある学びの場は,子供の動機と思考に寄り添うステージとなっていました。

 粟生先生の理科授業では子供の提案で「M-1」が自然発生的に始まることもあるそうです。今回の誌面では消化と吸収の仕組みを取り上げていますが,他の学習でも「M-1」と「H-1」は開催されています。例えば「てこの働き」では,支点・力点・作用点などてこの原理などを学んだ後に木槌をヒモで吊るして水平になる点を探すという問いについての「M-1」が開催されるなど,他のいろいろなテーマでも取り組むことができるようです。

 誌面で紹介したM-1グランプリでは,おにぎりを食べてからうんこになるまでの体内の様子を自由に想像した物語を発表していました。楽しく予想を発表することは探究への動機づけとなっていました。また,H-1グランプリでは,調べてわかったことに基づいて物語を再構築して発表しています。消化・吸収の仕組みに加え,栄養が命につながるという生命観にまで思考が発展していたことも注目すべき点です。

 「M-1」「H-1」を通して,子供の自由な発想に先生が寄り添い,考えや知識を子供同士で協働的に創造し,そのプロセスの楽しさを先生と子供達で共有していく,とてもユニークで遊び心ある取り組みでしたね。

 粟生先生は「今回の授業もただ単に自分が笑い転げていただけ」と言っていました。子供の気づきや疑問に寄り添いながら,子供と一緒に考えや知識をつくりだしていくことを楽しんでいるからこそ,「自分は笑っているだけ」と言えるではないでしょうか。子供の主体性を引きだす先生の構えや姿勢のあり方を考える機会となりました。

野原博人(のはら・ひろひと)
立命館大学産業社会学部教授。博士(教育学)。研究テーマは理科教育における学習環境論。「子供の科学」の連載「ビーカーくんと探検! わくわく理科授業」を監修。

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子供の科学 2026年 7月号

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