ビーカーくんと探検!わくわく理科授業 第3回 キミは見分けられるか? 本物の銅線はどれだ!?

隔月連載「ビーカーくんと探検! わくわく理科授業」の第3回(2025年12月号)では,東京都文京区にある筑波大学附属小学校の辻健先生の5年生の理科授業を紹介しました。冒頭で大ハプニング(?)が発生した授業でしたが、実はそこに辻先生のねらいがあった!?
今回は理科の授業の“舞台裏”を,辻先生と連載監修の野原博人教授の対談で紹介します。

ぜひ保護者の方と一緒にお読みください。

野原博人(のはら・ひろひと):立命館大学産業社会学部教授。博士(教育学)。研究テーマは理科教育における学習環境論。「子供の科学」の新連載「ビーカーくんと探検! わくわく理科授業」を監修。
辻健(つじ・たけし):筑波大学附属小学校教諭
横浜市で公立小学校の教員を17年務め、2015年より現職。文科省小学校理科教育等設備基準改訂検討会委員、国立教育政策研究 評価規準の作成に係る企画委員等を務める。
NHK「5分でわかる理科」「ツクランカー」等の番組制作、ポッドキャスト番組「おしゃべりな理科」を週2回配信中。「サバイバルドリル」(朝日新聞社)等を監修。

第3回で紹介した筑波大学附属小学校の辻健先生の授業では,電流の大きさや向き,コイルの巻数などに着目して,電流がつくる磁力を調べるという学習内容でした。
この学習では,“エナメル線を利用した電磁石の作成から入る”という展開が多いのですが,辻先生は「電気を流すと磁石の働きをもつという驚きが出てくるようにしたい」という考えのもと,銅線(針金状の銅)とカラー針金(ビニール導線)の2つを同時に子供たちに提示し、授業がスタートしました。辻先生はどのような意図で今回の理科授業を進めていたのでしょうか。授業の後,野原先生から辻先生に話を聞きました。

「コイルに電気を通すと磁石になる」おもしろさ

理科の授業ならではの学び

理科室と生活や科学技術とのつながり

野原先生の注目ポイント①:内容(領域)の系統性を意識した理科の学び

辻先生との対談であがった「系統性」とは「領域ごとの学びのつながり」を意味します。理科は,物理,化学,生物,地学といった学問領域を対象として構成されている教科ですが,学習内容は小学校・中学校・高等学校を通して順序立てて構成されています。

たとえば,小学校では3年生から6年生の各学年で電磁気を学ぶ内容が配置されています。小学3年生では「回路」,小学4年生では「電流の向きと大きさ」,小学5年生で「電磁石」,小学6年生で「発電,蓄電」というように発達の段階を踏まえた構成になっています。このような学習内容の系統性を意識して理科の授業は作られています。
辻先生の小学5年生の理科授業でも,小学3年生で磁石や電気を学習したことを活かして電磁石の仕組みについて探っていく展開になっており,子供が主体的に学習に取り組む姿を引き出していました。学びのつながりを意識した理科の授業を展開していくことで,子供が楽しく学ぶ姿を見ることができるのです。

野原先生の注目ポイント②:理科を学ぶときの「ことば」

今回の誌面記事では子供たちが楽しく学ぶ姿を多く見ることができました。銅線(針金状の銅)とカラー針金のことを「こい銅」,「うす銅」と表現していました。
辻先生は対談で「子供発のことばを使うことが多い」と言っています。理科の授業では,自然の事物・現象を何かに喩えながら学習を進めていくことがよくあります。子供の直感や経験などと目の前の事物・現象が関連づいたとき,子供は素直な気持ちで表現するのですね。今回の授業でも「こい銅」,「うす銅」と子供たちは2本を比較しながらネーミングが行われ,辻先生が子供の表現に寄り添いながらクラス全体に広げていきました。
今回の理科授業のように,教室の中での関わりを通して作り出され,全体で共有しながら使われることばのことを「社会的言語」と言います。共通の社会的言語を使いながら学ぶことで,自分の考えが表現しやすくなったりクラスの友達の考えが理解しやすくなったりすることがあります。理科の学びは単に科学的用語を覚えるのではなく,ことばを通して知識や考え方を創り出していくことが重要です。社会的言語を使いながら考えたり説明したりすることで,科学的用語の意味を理解していくというプロセスを楽しむ子供の姿を大切にしていきたいものです。

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