【緊急企画】津波34m、死者32万人……今、知っておきたい南海トラフ地震ってどんな地震?

プレート境界では定期的に大地震が発生!

 2024年8月8日、午後4時42分頃、宮崎県沖の日向灘を震源とする地震が発生しました。宮崎県日南市で最大震度6弱を観測し、地震の規模を示すマグニチュード(M)は7.1と推定されています。

 この地震の影響で宮崎県、鹿児島県、熊本県で合計15人がけがをした報告されており、この事実だけでも注目すべき地震ですが、今回の地震に関心が高まった背景には、近い将来、確実に起こるとされている南海トラフ地震が関わっています。

気象庁報道発表資料より

 私たちが暮らす日本列島は陸のプレート(北米プレート、ユーラシアプレート)の上にのっているのですが、これらのプレートの下には海のプレート(太平洋プレート、フィリピン海プレート)が沈み込んでいます。

地球内部の活動の影響で、日本列島が乗る陸のプレート(北米プレート、ユーラシアプレート)の下に海のプレート(太平洋プレート、フィリピン海プレート)が沈み込んでいる。

 ただ沈み込んでいるだけならいいのですが、沈み込む際に陸のプレートを一緒に引きずり込み、プレートの境界では徐々に歪みが蓄積。その歪みを解放するために引きずり込まれた陸のプレートが跳ね上がり、定期的に大きな地震が発生していて、こうした地震が「プレート境界型地震」と呼ばれています。

海のプレートが沈み込む際、陸のプレートを引きずり込むため、プレート境界には歪みが蓄積する。その歪みを解放するため、定期的に陸のプレートが跳ね上がり、地震を発生させる。海底の地形を変化させるため津波が起こるのもプレート境界型地震の特徴だ。

 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震もプレート境界型地震であり、北米プレートに生じた歪みを解放することにより、東北地方を中心に広い地域を強い揺れが襲いました。プレート境界型地震では、陸のプレートの跳ね上がりによって海底の地形が変形するため大きな津波が発生します。東北地方の太平洋沿岸に津波が押し寄せ、多くの尊い命が失われたことを知っている読者も多くいることでしょう。

 同じようにプレート境界に歪みが蓄積していると考えられているのが、ユーラシアプレートとフィリピン海プレートの境界である南海トラフなのです。先程紹介したように、プレート境界では歪みが蓄積して、定期的に大きな地震が発生します。南海トラフでは、1361年の正平地震以降、6回の地震が発生しており、その間隔は100年から150年といわれています。前回の昭和東南海地震(1944年)、昭和南海地震(1946年)からすでに80年ほどが経っており、南海トラフではいつ地震が発生しても不思議はないといわれているのです。

その後、地下の変化は観測されていないが……

 しかも南海トラフは静岡県沖の駿河湾から宮崎県東方沖の日向灘まで続いています。これらすべてのプレート境界で地震が発生したら、関東、中部、近畿、四国、九州という非常に広い範囲が揺れることになります。東北地方太平洋沖地震で震源域は海岸から100km以上離れているのに対して、南海トラフ地震の場合、海岸と想定される震源域は近く、短時間で津波が押し寄せることになるでしょう。

 そのため相模湾から日向灘までの広い範囲で南海トラフ地震が発生した場合、関東から九州にかけて高さ34mの津波が押し寄せ、最悪の場合、死者は32万人に達すると想定されているのです。

 8月8日に発生した地震の震源は南海トラフ地震の想定震源域の中だったことから、続けて南海トラフ地震が発生するのではないかと心配され、気象庁は初めて「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表。当面、巨大地震の発生に注意するように呼びかけました。

8月8日以降に日向灘で発生した地震は、南海トラフ地震の想定震源域の西の端に位置していたため、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表された。(気象庁報道発表資料より)

 幸い、気象庁は日向灘での地震以降、8月10日までは通常とは異なる変化は観測されていないと発表しており、巨大地震の兆候が強まっているわけではなさそうです。それでも近い将来に南海トラフ地震が発生することは間違いないでしょう。

 今回の地震をきっかけにして、読者のみなさんが防災意識を持つことが大切です。『子供の科学』では自然災害に際して対処法を紹介する「学校でも塾でも教えてくれない 生き残る技術」という連載記事を掲載していますから、ぜひチェックしてください 。

 8月8日発売の『子供の科学』2024年9月号の連載「学校でも塾でも教えてくれない 生き残る技術」では、大地震が発生したときの対処法として『「333」のハザードマニュアル』を紹介しています。子供たちが家族と離れた状況で地震に遭遇しても、生き残るために身を守る知識を、この機会に知っておきましょう!

斉藤勝司 著者の記事一覧

サイエンスライター。1968年、大阪府生まれ。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業後、ライターとなり、最新の研究成果を取材し、科学雑誌を中心に記事を発表している。著書に『がん治療の正しい知識』、『寄生虫の奇妙な世界』、『イヌとネコの体の不思議』、『群れるいきもの』などがある。

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