“超巨大”実験装置を見てきた! 「JT-60SA」いよいよ稼働

 子供の科学編集部が訪れたのは、茨城県那珂
なか
市にある「那珂核融合
かくゆうごう
研究所」。2020年3月に、最新鋭の核融合超伝導
ちょうでんどう
トカマク型実験装置「JT-60SA」の組み立てが完了し、近々実験が開始される予定だ。特別に見学させてもらった運転開始直前の装置を見ながら、壮大な核融合エネルギーの実験について紹介しよう。

防護服を着用して、いざ施設内部へ!

核融合エネルギーとは?

 星や太陽が輝き続けることができるのは、核融合によって発生したエネルギーによるもの。核融合エネルギーの研究を簡単にいうと、地上で太陽をつくり出し、このエネルギーを利用した発電所をつくろうというものだ。

 重水素
じゅうすいそ
三重水素
さんじゅうすいそ
(どちらも一般的な水素よりも多くの中性子を持つ「同位体
どういたい
」と呼ばれる物質)の原子核が融合すると、大きなエネルギーを持ったヘリウムと中性子が発生する。重水素と三重水素1gで、なんと石油8t分のエネルギーを生み出せるという。

 これらの原子核を融合させるためには、毎秒1000kmもの高速で衝突させる必要があり、そのためには1億℃以上の高温に加熱することが必要だ。このとき、原子核と電子がバラバラになって飛び回る「プラズマ」の状態になるんだ。

JT-60SAではどんな実験をする?

 JT-60SAで行われるのは、超高温のプラズマを安定して保持するための実験だ。

 JT-60SAは、「トカマク型」と呼ばれる核融合実験装置。ドーナツ状(トーラス形状)の真空容器内にプラズマを閉じ込める方式の核融合炉で、容器の周りに設置されたコイルに電流を流して磁場を発生させ、容器の中のプラズマを制御するしくみになっている。

JT-60SAの内部の図。装置が稼働すると、ドーナツ状の真空容器の内部のピンク色に描かれている部分にプラズマが発生する。(画像提供/量子科学技術研究開発機構)

 核融合エネルギーによる発電の実用化のためには、臨界
りんかい
条件クラスの高性能プラズマを長い時間キープすることが重要だ。JT-60SAでは、世界最高水準のプラズマ制御の実験を行い、その成果を「イーター(ITER)計画※」に活かすことが目的になる。

※イーター計画
日本、ヨーロッパ、アメリカ、ロシア、韓国、中国、インドの世界30 か国以上の国が協力して、核融合実験炉を建設する巨大事業計画。イーターの本体は南フランスにあり、2007年から建設が進められている。
イーター計画についての詳細はこちら

いよいよ巨大施設巡りへ!

 JT-60SAは、本体総重量2600 t、中心部分の装置の高さは7.5m、直径は12mで、つくり出すプラズマの直径はおよそ3mという世界最大級の実験装置だ。

 前身の「JT-60」は1985年に実験を開始し、数々の記録と発見を生み出し2008年に運転を終了した。JT-60SAはこの成果を受け継ぐ後継機
こうけいき
として2013年から機器の組み立てを開始し、ついに2020年に完成。今回は、実験スタートの前に特別に見学させていただいた。

 では巨大施設の周辺をじっくり見て行こう!

中性粒子ビーム入射加熱装置

 青い部分が中性粒子ビーム入射
にゅうしゃ
加熱装置といって、ここから高エネルギーの水素原子を入射してプラズマを加熱する。

真空排気設備

 真空容器からニョキっと伸びているのは、真空容器内を超高真空に排気する装置だ。

プラズマの光を撮影するカメラ

 真空容器から飛び出している
つつ
は何だろうと思ったら、この筒は長さが約3mあって、真空容器の内部に4本刺さっている。このうち上の2本の筒の先端にはTVカメラが設置されている。プラズマからは人の目に見える光も出てくるので、この可視光
かしこう
をカメラで撮影してモニターするのだ。

とにかく管がいっぱい!

 装置の周辺を回ると、とにかくものすごい数の配管や金属のラインが張り巡らされている。これらは主に、コイルを-269℃まで冷却して超伝導状態をつくり出したり、巨大な電流を流したりするための設備だ。

中央制御室

 核融合研究所の研究者たちが集う中央制御室では、巨大モニターで真空容器内の状況を観察する。コイルに流す電流を変化させるなどして、プラズマの状態がどう変化するかを実験するのだ。

制御室の非常停止ボタンを発見! 基本的には何か起きる前に自動で停止するので、使用することはまずないのだそう。

ジャイロトロン

 那珂核融合研究所内の別の施設では、イーターに設置する高周波加熱装置「ジャイロトロン」を実験・製作中。イーターは参加する各国が分担して装置をつくり、フランスに送って設置するという。日本が担当するこの「ジャイロトロン」は、簡単にいうと、電子レンジと同じ原理を用いて電磁波
でんじは
でプラズマを加熱する装置だ。

すでに完成して、フランスへの発送待ちのジャイロトロンも発見!

人工ダイヤモンドの窓

 上の発送待ちのジャイロトロンに、白くて丸いところがあるよね。この丸い部分には、人工のダイヤモンドが使われている。

 ジャイロトロンの中では、電子レンジの1000倍以上のマイクロ波パワーが発生する。このマイクロ波を内部の鏡で反射させながら、人工ダイヤモンドでできた窓を通して、外部に取り出すのだ。

 なぜ人工ダイヤモンドなのかというと、他の材料と比べて、高周波の吸収率が低く、熱伝導率がものすごい高いから。他の材料では長時間運転をしていると壊れてしまうが、人工ダイヤモンドを使うことで、長い時間プラズマを加熱し続けることができるようになったんだ。

 『子供の科学』2020年12月号の記事では、この写真が何をしているところかコカネットで答えを紹介すると書いたね。

 手に持っているのは、もちろん人工ダイヤモンドの窓だ。見てわかるように、ヒビが入って使えなくなってしまったものを、特別に触らせてもらった。ダイヤモンドだから、とっても高価で貴重なんだ。

 このダイヤモンドの窓を手に持って、氷にあててみる。そうすると、持った手の熱があっという間に氷に伝わって、包丁で豆腐を切るように、氷が気持ちよく真っ二つになる! さらに、手に持っている人工ダイヤモンドは急激に冷やされて、すぐに手が痛くなるほど冷たくなる。これは熱伝導率がとても高いことを表している。とてもふしぎで、驚きの体験だった!

遠隔保守ロボット

 このかっこいいメカでトカマク型の核融合炉を遠隔
えんかく
で保守するよ。巨大な施設をどのようにしてロボットで修理するかも研究しているんだ。

遠隔保守ロボットの操縦席。ゲームみたいな感じでちょっとおもしろそう。

ついに実験の開始!

 JT-60SAは、近日中に実験を開始するゾ。最新情報は「コカネット」でも紹介していくからお楽しみに!

取材協力

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 那珂核融合研究所 関連記事一覧

1985年に研究所ができてから、太陽が輝くパワーの源であるプラズマを利用してエネルギーを作る研究を行っています。世界の人々と協力して、JT-60SAやイーターという実験装置を作っていて、いろいろな実験を行いながら、核融合発電の実現を目指して研究を進めています。

取材・文

子供の科学編集部 著者の記事一覧

1924年創刊の小中学生向け科学月刊誌。話題の科学ニュースを、どこよりもおもしろく、わかりやすく解説。宇宙、生き物、テクノロジーなど、好奇心旺盛な子供たちがわくわくする科学をお届けします。創刊以来、研究者や医師、エンジニアなど一流の人たちが子供時代に読んでいた雑誌として知られています。また、毎月工夫をこらした実験や工作を多数紹介。手を動かしてものづくりをする体験を提供しています。子供向けのプログラミング学習記事も充実。記事の内容と連動したプログラミングキットの開発も行っています。

写真/青柳敏史

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