《連載ドクターズ・リレー》2022年12月号 – 高橋幸宏先生「小児心臓外科の仕事」

さまざまな分野で活躍する医師に、お仕事の内容や魅力を語ってもらう連載「ドクターズ・リレー」。子供の科学2022年12月号では、小児心臓外科医の高橋幸宏先生に取材。誌面で紹介しきれなかったお仕事の内容について、さらに詳しくお届けします。

約7000人の手術をしてきた

── これまでの医師人生をほぼ手術室とICU(集中治療室)で過ごされたと伺いました。どれくらいの人数の方を手術されたのでしょうか。

 一番多い時代で、年間550例くらいの心臓病の手術と、それ以外にも心臓の動きを助けるペースメーカーを入れたり、傷を縫ったりといった手術を含めて、年間650例くらいの手術を1つの手術室だけで行っていました。だから1日2〜3つの手術の予定を組んでいました。小児だけでも、7000人ぐらいの患者さんに心臓の手術を行っていると思います。

── その中で、印象に残っている患者さんはいらっしゃるでしょうか?

 特定の方でとくに印象深いということはほとんどないのですが、ときどき思い出す患者さんというのはいらっしゃいます。先天性の病気で、生まれてすぐから病状が重く、その中で奇跡的に助かった患者さんと、力を尽くしても残念ながら亡くなってしまった患者さんについては、今でもふとしたときに思い出すんですよね。助かるにしても、そうでなくても、生まれてからほんの一瞬でも関わった患者さんをこうやって思い出すことは大事なことだと思っています。

── 先天性の病気は、いつごろわかるのでしょうか?

 妊娠中の超音波を使った画像診断で検査をすることで、妊娠16週(妊娠5か月)から、心臓のつくりなどの病気がわかるようになります。これを「出生前診断」というのですが、非常に難しい問題なんです。

 いち早く心臓に重い病気があるとわかることで、生まれてすぐにでも手術を受けられるようにすることができます。しかし、出生前診断によって、重大な疾患を持っていることがわかり、出産するのを泣く泣く諦める方もいます。こればかりは、どうなるかわからない上に、誰かが悪いわけではないので、難しい問題です。

 実際に生まれてから手術をすることで助かる場合もありますし、残念なことに助からない場合もあります。ぼくの同僚の中にも、先天性の重い心疾患を持って生まれ、手術をして、大人になって今現在、一緒に働いている人もいます。

手術時間の短縮が、好循環をつくる

──数多くの手術を行う中で、先生が新たに始めたことはありますか。

 手技的なことに関して1つ例をあげましょう。右心室から肺動脈へつながるはずの血管がつながっていないという病気があります。このとき、人工的な血管を使って、肺動脈と心臓の右心室をつなぐ必要があります。これは、「ラステリ」という手術で、その人工血管には逆流をふせぐ弁が必要になります。それまで、その弁を何でつくるのかが問題になっていて、ぼくはゴアテックスという防水性や透湿性がある非常に薄い素材で、心臓の弁膜をつくりました。1997年頃からラステリ手術で、その弁を使い始めました。

 この素材の弁がよいところは、ふつう、人工的な心臓の弁をつくると、心臓の中で血のかたまり(血栓)ができやすくなるため、血栓ができないようにワーファリンという薬を飲まないといけません。しかし、そのゴアテックスの弁でつくると、ワーファリンを飲まなくても大丈夫なのです。それで、新生児にもその弁が使えるんです。大人は直径26〜28mmの弁ですが、新生児は直径12mmしかない弁を使います。この弁は今でも心臓の手術に使われています。

── 先生が手術で大切にしてきたことは何でしょうか。

 赤ちゃんや低出生体重児、小さい子供の心臓手術の場合、心臓だけを治すのではなくて、全身を診ないといけません。非常に状態が悪い患者さんをなるべく健康にするため、全身の管理をして、いかに身体への負担を少なくするかを考えてきました。なるべく体を傷つけずに行う、低侵襲手術です。そのためには、手術のときに手技を磨くことで出血を少なくすることも大切ですし、手術の間、患者さんの心臓の代わりに血液を全身に送る人工心肺がありますが、これを使うことで、患者さんに炎症が起こることがあるため、いかに人工心肺での影響を小さくするかということをとことん考えました。この「患者さんへの負担をいかに小さくするか」については、『榊原記念病院 低侵襲手術書』という本も出しました。

 その中でも、もっとも大事なのは手術の時間を短縮することだと思っています。時間が短ければ、出血もその分少なく、人工心肺を使う時間も短くなり、患者さんへの負担を身体的・精神的にも小さくできます。

 手術の時間短縮には、手術に関わる医師だけでなく、看護師や麻酔医、技師などの医療スタッフが協力しないとできません。また、早く手術を終えることができれば、患者さんだけでなく、医療スタッフの負担も小さくなります。こうした好循環がつくれるといいですよね。

 また、このように考えて手術をすることで、結果的にたくさんの手術をして、たくさんの患者さんを助けられることにつながり、仕事が楽しいと思えるんです。医者になったからには、どれくらいの人を助けられるかが重要だと思っていて、そのほかのことであまり理屈をこねてもしょうがないとぼくは思っています。

もし医師になると決めたなら…

──医学部に入るまでは、おもしろい人間になるために子供たちにはたくさん遊んで欲しいとおっしゃっていましたが、医学部に入ってからのアドバイスはありますか。

 人には、自分で選択する自由があって、すべてが決まった運命というものはありません。けれど、もし大学で医師になるという気持ちを固めたら、これが自分の運命、使命だと思わないとやってられないことが多々あります。

 医師になる覚悟、医師になる使命を感じる気持ちを持ってもらえるといいと思います。大学生になると、いろいろな面で気持ちが揺れたりすることがあるので、そうした覚悟を持つことは、ぼくの経験上、いいことだと思っています。

原口結(ハユマ) 著者の記事一覧

編集者、ライター。児童書、図鑑、学習教材などを中心とした書籍の企画・編集、取材、DTPを行う。子供の科学サイエンスブックスNEXT『科学捜査』、『単位と記号 パーフェクトガイド』(いずれも誠文堂新光社)などを手がける。

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