秋の夜長に読みたいニュース★ツイッターをきっかけに新種のダニを発見!……からの、ふたたび新種を発見!!

「新種発見!」という響きが嫌いな人なんていないよね。今回は、ツイッターのツイートがきっかけで新種が発見された(×2)というオドロキのお話をお届け。これからは「ん?」と思ったら、まずは写真を撮ろう! もしかしたら、すごい結末が待っているかもしれないから。

 2021年3月、新種のダニが報告されました。その名も「ツイッターダニ」。どうして、このような風変わりな名前がついたのでしょうか。そして、続けて起こったさらなる展開とは……。

 この物語は2019年5月、千葉県に住む会社員の根本
ねもと崇正
たかまさ
さん(@yatsume_project)が、ダニの画像をツイッターに投稿したことに始まります。この日、根本さんは千葉県の銚子外港
ちょうしがいこう
に魚釣りに出かけますが、魚が釣れなくて暇を持て余していました。そこで、趣味のひとつである節足動物を撮影して、ツイッターに投稿したのです。 

根本さんが投稿した画像。(https://twitter.com/yatsume_project/status/1124999187626483717

 この写真に目をとめたのが、ダニ類の分類学などを専門にしている法政大学の島野
しまの智之
さとし
教授(@freeliving_mite)です。島野教授は、写真に写っているのがハマベダニ属のダニであることに気づきます。しかし、これまでに知られていたハマベダニ属のダニとは微妙に特徴が異なるため、新種ではないかと考えました。

 そこで、島野教授は根本さんに連絡を取り、ダニのいた場所などを教えてもらいます。数日後、銚子外港へ向かい、首尾よくダニの採集に成功した島野教授は、共同研究チームのトビアス=プフィングスティル博士(グラーツ大学・オーストリア)とともに、このダニを詳しく調べました。そして、新種であることを確認したのです。

(A)ツイッターダニが見つかった銚子外港。矢印が採集地点。(B)車止めのひび割れにはツイッターダニのコロニーがあった。(C)ツイッターダニのコロニー。(D、E)暖かい日に撮影された動いているツイッターダニ。AとBは島野教授が撮影、C、D、Eは根本さんが撮影して、ツイッターに投稿したもの。(画像出典/10.12782/specdiv.26.93

 

論文に掲載されたツイッターダニの画像。メスの成体。(画像出典/https://doi.org/10.12782/specdiv.26.93

 新種として発表するときには「学名(種名)」をつけなければいけません。学名は「属名」と「種小名」という2つの単語からできていますが、新種のダニは、属名が「Ameronothrus」と決まっていました。そこで、発見のきっかけとなった「Twitter」という単語を種小名につけて、「Ameronothrus twitter」という学名にしました。こうして、「ツイッターダニ」が誕生したわけです。ただし、「ツイッターダニ」という呼び方はあくまでも通称で、日本国内で使われる和名は「チョウシハマベダニ」という名前になりました。

 ハマベダニ属は本来、北極圏に棲息していることが知られています。日本では、2019年に島野教授のチームが北海道で見つけた「ヨイチハマベダニ」が最初で、銚子から見つかったチョウシハマベダニは2番目の発見となりました。また、ハマベダニ属は、東アジアでは北海道より南で見つかっていなかったため、千葉県が東アジアでの南限となりました。

 チョウシハマベダニは、ツイッターがきっかけになって見つかった世界で初めての動物となります。生物としては2例目で、1例目はデンマークの生物学者が発見した新種の菌類でした。

 2021年3月にチョウシハマベダニが報告されると、「ツイッターダニ」という名前がネット上で話題となります。すると、このニュースを目にした鳥取県に住む大学院生の大生
おおばえ唯統
ゆいと
さん(@831245leg)が、「今話題のハマベダニってこれのことだろうか?鳥取県で撮影。」と、ツイッターにダニの写真を投稿しました。

大生さんが投稿した画像。(https://twitter.com/831245leg/status/1374301906625994752

 写真を見た島野教授は、このダニも新種ではないかと考えて、大生さんに採集を依頼します。そして、大生さんから送られてきたダニを、共同研究チームのトビアス=プフィングスティル博士、蛭田眞平博士(昭和大学)とともに研究したところ、なんと、このダニも新種であることがわかりました。

論文に掲載されたリツイートダニの画像。上がオス、下がメス。(画像出典/https://doi.org/10.1080/01647954.2022.2074538

 ツイッターでは、投稿したメッセージを「ツイート」、自分や他人のツイートを再びツイートすることを「リツイート」といいます。今回、大生さんが行った投稿は正確にはリツイートではありません。ですが、ツイッターダニをきっかけにしたツイッターでのやりとりから再び新種が見つかったということで、小種名に「Retweet」という単語がつけられ、学名は「Ameronothrus retweet」となりました。こうして2022年5月、「リツイートダニ」が報告されました。

 リツイートダニの和名は「イワドハマベダニ」です。岩戸という場所から見つかったイワドハマベダニは、日本海側で初めてのハマベダニ属の記録となりました。また、チョウシハマベダニの記録を塗り替え、ハマベダニ属の新たな南限ともなりました。実は、2022年1月、日本とオーストリアの研究チームが、海水温や気温から、鳥取県がハマベダニ属の南限であると予想していました。イワドハマベダニの発見により、この予想が的中したことになります。

 ツイッターをきっかけに新種のダニが発見されたことについて、島野教授はツイッターに「(1) 一般ユーザが誰でも新種の発見や生物多様性の解明に協力・参加できる。(2) SNSは時間がかかる新種の発見のスピードアップを促すことが可。(3) 未知の生物情報の多くは、未だSNSに埋もれている」と投稿しています。私たちの身近なところにも、まだ知られていない生物がたくさんいます。SNSを活用することで、みなさんも新種の発見に協力できるかもしれません。ただし、SNSには年齢制限がある場合もありますので、保護者の方と一緒に利用規約などをよく読んでから利用するようにしてくださいね。

ツイッター」とは
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のひとつ。決められた文字数以内の文章や、画像、動画などを投稿することができる。投稿は「ツイート」と呼ばれる。元々、英語の「tweet」は「小鳥のさえずり」という意味。

リツイート」とは
ツイッターの機能のひとつ。自分や他人のツイートを引用したり、そのまま拡散したりする目的で、再びツイートすること。「Re
」は「再び」という意味。

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編集者・ライター。

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