海水を電気分解して水素をつくる!有害な塩素ガスが発生しない技術

 地球温暖化の原因といわれる二酸化炭素の排出量を下げ、持続可能な社会を実現する切り札の1つが、水素エネルギーです。燃やしても二酸化炭素(CO2)を出さない、まさにカーボンニュートラルを代表する燃料といえます。

 しかし現在、水素の製造には大量の化石燃料が必要です。CO2を発生しない理想的な水素製造方法は、水を電気分解してつくる方法です。電気分解の電力源に再生可能エネルギーを使用すれば、全行程でCO2を発生しないだけでなく、再生可能エネルギーを水素に変換して貯蔵しておけることにつながります。

水の電気分解で水素をつくるときの課題

 水の電気分解は、中学の科学の授業で実験します。水にプラスとマイナスの電極を入れて電気を流すとイオンの反応が起こって、水が水素と酸素に分解される現象です。化学式で表すと次のような反応が起こっています。

2H2O → 2H2 + O2

 ところが水の電気分解には「真水
まみず
」が必要になり、大量に行う場合、いずれ真水が枯渇するのではないかという問題があります。そこで地球表面の7割以上を覆っていて、ほとんど無尽蔵
むじんぞう
ともいえる海水を使う方法が考えられています。

 しかし、海水を一般的な電極(白金、イリジウム酸化物など)を使って電気分解すると、マイナス極からは水素ガスが出ますが、プラス極からは塩素ガスが発生してしまいます。塩素ガスが発生するのは、塩化物イオンの酸化による塩素発生反応が、水の酸化による酸素発生反応よりも先に起こるためです。塩素ガスは、毒性と強い腐食性を持つため、取り扱いには注意が必要であり、結果的に製造コストも高くなっていまいます。

塩素ガスが発生しない触媒を開発!

 これまで、海水を電気分解するときに塩素ガスを発生させない方法として、海水にアルカリ物を添加する方法や、触媒
しょくばい
の上に塩化物イオンを排除する層を組み合わせる方法が提案されてきました。

 今回、山口大学大学院創成科学研究科中山雅晴
まさはる
教授
吉田真明
まさあき
准教授
らの研究グループは、新たに触媒の特異な反応選択性を利用することで、塩素を出さずに海水を電気分解する技術を開発しました。

 研究グループは、プラス電極の表面に、電気メッキの方法で二酸化マンガンシートが積み重なった構造からなる薄膜
はくまく
を形成し、300℃以上で加熱。すると、二酸化マンガンの格子
こうし
中に酸素欠陥
さんそけっかん
(酸素が抜け落ちること)が形成され、シートが乱れてバラバラになります。

開発された触媒の構造。酸素欠陥を持つ二酸化マンガンシート上で、酸素発生反応の速さが変化した。(出典/山口大学プレスリリースより)

 従来通りの積層構造と、新開発の乱層構造の二酸化マンガン被覆
ひふく
を施した電極で、海水と同じ濃度の塩化ナトリウム水溶液を電気分解したところ、積層構造の電極からは酸素も塩素も発生しませんでしたが、乱層構造の電極からは酸素が優先的に発生しました。

今回開発した触媒および一般的な触媒を使って塩化ナトリウム水溶液を電気分解したときの酸素発生および塩素発生のファラデー効率《電解液 0.5 M NaCl、電解時の電流 10 mA/cm2》(出典/山口大学プレスリリースより)

 この理由として、酸素欠陥
によって化学反応メカニズムに変化が現れ、反応速度を決めるもっとも遅いステップ律速段階
りっそくだんかい
が変わったのではないかと研究者は考えています。

 今後は、実際の海水を使った実験と耐久性の評価も行い、実用化を目指すといいます。実用化されれば、水素社会実現に大きく貢献することでしょう。

【論文情報】
論文題目: Selective Catalyst for Oxygen Evolution in Neutral Brine Electrolysis: Oxygen-Deficient Manganese Oxide Film
著者: Hikaru Abe, Ai Murakami, Shun Tsunekawa, Takuya Okada, Toru Wakabayashi, Masaaki
Yoshida, Masaharu Nakayama*
掲載誌: ACS Catalysis

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サイエンスライター。1953年、富山県生まれ。成蹊大学文学部卒。出版社の編集者を経て、科学技術分野の執筆活動を行なっている。自然科学から工学まで幅広い分野が対象で、航空分野にはとくに造詣が深い。

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