【研救者列伝file.1】台風を電気に!? 風力発電に革命を起こす

 みなさん、こんにちは! 「NEST LAB
ネスト ラボ
」の木村といいます。

 コカネットで新しく「地球を救う技術に挑む!研救者列伝」というコーナーを担当することになりました。この連載では、地球を救う課題解決にチャレンジしている日本の大学や企業の研究者を、「研“救”者
けんきゅうしゃ
」として紹介していきます。研救者が挑む技術は、どれも情熱やアイデアにあふれる一味違うもの。みなさんきっと驚くはずです!

 また、このコーナーは「インタビュー編」と「実験・工作編」に分かれます。インタビュー編で研救者の技術を知った後に、それに関係する科学の原理やしくみを「実験・工作編」で体験してみてください。そしてぜひあなた自身が、次の「研救者」を目指してほしいと思います!

 では、最初の研救者をご紹介しましょう。

強風専用の風力発電機をつくった研救者

 東京都墨田区にある「株式会社チャレナジー」。代表取締役CEOの清水敦史
あつし
さんが、今回の研救者です。

株式会社チャレナジー代表取締役CEO 清水 敦史さん

 チャレナジーはものづくりの会社です。つくっているものは風力発電の設備

 普通、風力発電の設備というと、どんなものを想像しますか?

 きっと扇風機みたいな「プロペラ」を想像しますよね?

 ところがチャレナジーが開発した発電機は……見てください!

 こんな形です。

「えー、これが風力発電?」

「全然プロペラじゃないじゃん!」

 と思うでしょう。

 これは風がつくる「マグナス力」という力を使った風力発電の設備なのです。ではマグナス力とは一体なんでしょう?

そもそもプロペラってどうして回るの?

 まずは、よく目にするプロペラの風力発電機について知っておきましょう。

 風力発電は、プロペラを回すことでタービンを回して発電を行っているわけですが……プロペラはなぜ風が当たると回るのでしょうか?

 風力発電のプロペラの羽は斜めになっているから、風で押したら
はじ
き飛ばされて回るんじゃないかと思うかもしれません。

 これはちょっと違います。では、原理を紹介しましょう。

 プロペラの風が当たっている面は、空気が溜まって濃くなり「高圧」になります。 風が当たっていない面は、当たっている面に比べて空気が薄く「低圧」になります。

プロペラ回る原理を絵にしてみました。(作/NEST LAB木村)

 すると、低気圧の側にまるで掃除機のようにギュイーン!と吸われるような力が働きます。この力によりプロペラがぐるぐると回転し、この回転のエネルギーを電気に変えているというわけです。

 つまり、プロペラの回転は空気が「高圧」なところと「低圧」なところができるから、ぐるぐる回るわけですね!

「高圧」と「低圧」があれば発電機はぐるぐる回る!

 それでは、いよいよチャレナジーの発電機を見ていきましょう。

この形でなんで回る?

 チャレナジーの風力発電機は、「高圧」と「低圧」を一風変わった方法で生み出しています。

 まず、プロペラのかわりについているこの「
つつ
」に風が当たります。この筒は風が当たるときに、わずかな電気の力で回転します。このとき、筒の風に逆らって回る
がわ
には空気がたまり「高圧」に、逆に風と同じ方向に流れている側は「低圧」になります。

マグナス式発電機の原理を絵にしました。(作/NEST LAB木村)

 すると、プロペラの羽と同じように、筒が 「低圧」な方向に引っ張られます。おお! これならプロペラと同じように、この発電機全体がぐるぐると回るじゃないですか!

 この回転する筒に風を当てると、1つの方向に引っ張られる力のことを「マグナス力」といい、 1800年代にドイツの科学者マグナスさんが発見しました。

 野球のカーブボールが曲がる原理も、このマグナス力で説明できます。回転しながら飛んでいくと、その向かい風の影響で「マスナス力」が働き、グイーンとカーブするのです。2021年3月には、東京工業大学の青木尊之教授らの研究チームがスーパーコンピューターを用いて、フォークボールが「負のマグナス効果」によって落ちているということを解明したことがニュースになっていたので、そのときに「マグナス」という言葉を聞いたという人もいるかもしれませんね。

台風の多い日本で風力発電の救世主に!

 では、プロペラ式の風力発電に比べ、マグナス式の風力発電が優れているところはどこでしょう?

 それは、日本に多い台風の風を使って発電ができることです。

 国内にあるプロペラ式の風力発電の設備は、風速25m/s以上になると、壊れる危険があるため回転が停止するようになっています。そのため突然の強風や台風がきた場合には、発電は止まってしまいます。

 しかし、チャレナジーのマグナス式の風力発電設備は、風速4m/sから40m/sという台風の風速まで発電することができます。台風の多い日本の特性を、逆に長所として活かした新しい風力発電の設備なのです。風力発電の課題だった台風を電気に変える、まさに地球を救う「研救者」ですね。

 すでに、沖縄県南城市で1kWの試験機、石垣市で実証実験機を稼働させており、日本国内だけでなくフィリピンなど東南アジアへの普及を目指して、日々研究を進めています。

 台風のやってくる方向は毎年ほぼ決まっているので、効率よく発電できる位置にたくさんマグナス式風力発電機を設置すれば、日本の気候の特性を活かした新たなライフラインができるかもしれません!

身の回りのものを分解してオリジナルに

 チャレナジーは、プロペラの回転するしくみを分解して、それをまた違ったオリジナルの形にしてつくり上げ、台風の多い日本に合った風力発電の設備をつくるという「研救者」です。もしかしたら、みなさんも身の回りにあるもののしくみを分解して、あなたのオリジナルを加えてまったく違うつくり方をすることで、新たな課題が解決できる「研救者」となれるかもしれません!

実験・工作編では、マグナス力を体験する実験をやってみましょう!

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「NEST LAB(ネストラボ)」は世界の課題を科学技術を用いて解決していこうと活動をしている株式会社リバネスがつくり出した「小中学生のための研究所」。ものづくりとライスサイエンスをテーマとしたオンライン教室を毎月2回開催しており、2021年度も6月より開講します。リバネスの本物の研究者である講師が、オンラインでレクチャーします。詳しくはホームページをご覧ください。 NEST LAB公式ホームページ

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