【新型コロナウイルス研究Part④】普通の風邪じゃない!明らかになってきた感染症の実態

 新型コロナウイルス研究の最前線を解説するシリーズ。Part④は、実際に感染症にかかった後の免疫
めんえき
の獲得や、後遺症
こういしょう
のお話です。

国立感染症研究所で分離に成功した新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真(画像提供/国立感染症研究所)

新型コロナの免疫は長続きしないかもしれない

 この短期連載Part②「感染拡大を防ぐ切り札になるか!? DNAワクチンってなんだ?」でも紹介した通り、私たちの体が持つ免疫は過去に感染したウイルスや細菌などの病原体を覚えていて、再び同じ病原体が感染しても速やかに排除
はいじょ
することができます。

 だからこそ、弱毒化
じゃくどくか
した病原体
びょうげんたい
や、病原体の一部分をワクチンとして接種
せっしゅ
することで、実際に病原体が感染しても、症状があらわれる前に排除するか、たとえ症状があらわれても軽く
おさ
えられます。ところが、新型コロナウイルスの場合、一度感染しても十分に免疫が獲得できない可能性があることが、アメリカのカルフォルニア大学ロサンゼルス校の研究グループによって明らかになりました。

 体外からウイルスなどの病原体が侵入すると、これを排除するために、私たちの体内では抗体がつくられます。形の違いや病原体の感染後に働き始める時間差などから、抗体は5種類に分けられており、このうち「免疫グロブリンG(IgG)」と呼ばれる抗体は、病原体が感染して少し時間が経ってからつくられるものの、長く体内に保持されて、再度、感染してきた病原体に対して速やかに働くことができます。

 この抗体は過去に感染した病原体に対する抗体を持っているかどうかの指標
しひょう
となるため、研究グループは新型コロナウイルスの感染が確認されるも、軽症だった患者34人を対象に、血液中のIgG抗体の量を調べました。症状があらわれてから平均37日目に行った1度目の分析結果と、平均86日目に行った2度目の分析結果を比較したところ、抗体が急速に減少する患者がいたというのです。

 抗体が減少するということは、新型コロナウイルスに対する免疫が長続きしないのではないかと心配になります。しかし、すべての軽症患者で抗体の減少が確認されたわけではありませんし、近い将来、実用化されるワクチンでも同じような結果になるかどうかは明らかになっていません。今後は、重症患者やワクチン接種で抗体を獲得した人を対象にしたさらなる研究が求められます。

回復したようでも長期にわたって後遺症が残る

 新型コロナウイルスの感染が拡大した当初から、若い人には無症状の人が多く、たとえ症状があらわれても軽症ですむと報じられてきました。実際、世界保健機関(WHO)によると、80代以上の致死率
ちしりつ
が15%近くにもなるのに対して、30歳代までは0.2%と低くなっています。

 そのため若い人の中には「自分は感染しても大丈夫」と考える人がいるようですが、致死率は低くとも、新型コロナウイルスを甘く見てはいけないことを示す研究成果が、イタリアのジェメッリ大学病院の研究グループによって報告されました。

 通常、新型コロナウイルスの感染が確認された患者は、他の人に感染が広がらないように隔離
かくり
された環境で治療を受けます。その後、改めてPCR検査を行って体内にウイルスがいることが確認されなければ、晴れて完治したとして退院することができるのですが、新型コロナウイルス感染症の後遺症に注目した研究グループは、回復した患者143人の追跡調査を行いました。

 その結果、回復してから2か月が経った時点で、「何も症状がない」と回答したのは12.6%に
とど
まり、87.4%の患者が「何らかの症状がある」と答えたというのです。主な症状は倦怠感
けんたいかん
(疲れやだるさを感じる症状)、呼吸困難、関節の痛み、胸の痛みで、その他、
せき
、鼻炎、頭痛、めまい、味覚・嗅覚
きゅうかく
の異常、食欲不振などの症状を
うった
える患者もいたといいます。

 一般的な風邪なら、体内に侵入したウイルスを撃退して、症状が治まった後に後遺症に悩まされることまずないでしょう。その点、新型コロナウイルス感染症は、従来の風邪
かぜ
とは異なることがわかります。

 追跡調査が行われた患者の平均年齢は56.5歳と決して若くはありませんが、調査対象の中には若者も含まれていました。致死率が低くても、思いもよらぬ後遺症に悩まされ続けるかもしれないのですから、若いから大丈夫だと思ってはいけません。

 感染しないように、そして、知らぬ間に感染して他の人に感染を広げないように、“三密
さんみつ
(密閉、密集、密接)”を避け、人が多いところに出掛けるときは必ずマスクを着ける、こまめに手洗いをするなどの感染症対策を徹底しましょう。

出典/厚生労働省ホームページより

【参考文献】

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2025179

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2768351

https://www.worldometers.info/coronavirus/coronavirus-age-sex-demographics/

取材・文

斉藤勝司 著者の記事一覧

サイエンスライター。1968年、大阪府生まれ。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業後、ライターとなり、最新の研究成果を取材し、科学雑誌を中心に記事を発表している。著書に『がん治療の正しい知識』、『寄生虫の奇妙な世界』、『イヌとネコの体の不思議』、『群れるいきもの』などがある。

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