『子供の科学2025年9月号』の「ヘルドクターくられ先生のあやしい科学を疑え!」は読んでくれたかな? 本誌では収まりきらなかった、くられ先生の頭の中の徒然考えているお話を、コカネット限定で配信中! 本誌の連載とあわせて楽しんでね。
イラスト/obak(@oobakk)
ウソは最強のコミュニケーション道具であり、最悪の反則凶器である
本誌では、ウソと科学についての話をして、ウソをついても現実は何も変わらないという普通すぎる現実の話をしてきました。
こちらでは、そもそもの会話の中でのウソについて、ウソがどういったものなのかを見極めて、ウソを使う人の目的を見ていきたいと思います。
科学とウソは相性が悪く 感情論とウソは相性がいい
これを読んでいる人は、成績の高い人(高かった人)、よくない人(よくなかった人)、いろいろいるかと思いますが、テストで総じてよくない点を取ったとしましょう。
そこで、「貴方のテストの点はだいたい低いので、もっと勉強が必要です」といわれると、そりゃそうですよ……と、当たり前のことをいうなよと思いますよね
そこに、「テストの点なんか関係ないよ、社会に出たら理科なんか使わないんだし」という人が現れたら、後者の人の方がいい人に思えるでしょう。これは誘導でもなんでもなくて、筆者も後者の人の方が好感度は高いです(笑)
ただ、いい人と悪い人というのは、ここでは「耳触りが」いい悪い、快不快の判断基準であるという点を忘れてはいけません。そして快不快の判断の世界には、ウソを巧みに使って人を操ろうとする悪い奴がゴマンといて、そうしたやつらに騙されたら、いい気分に勝手になって、そして大きくお金や健康、そして友達までもを失ってしまうことになる……という話です。
ようするに、都合のいいウソを信じてついていくと、現実からは遠ざかるってことです。
テストで点数の悪かった人が、「大人になったら使わないし?」と勉強をしなければ、成績は1mmも上がらないわけです。当たり前ですが、これ忘れやすい大事なところです。
注射が好きという人は、まずいません。お金を払って痛いめにあうワクチンなんか打たない理由があれば、打ちたくないですよね。かわりにありがたい天然の塩を買ってそれを、普段の塩のかわりに使うだけで免疫がつくといわれたら、ワクチンに使うお金をそのまま塩を買うお金に使う人もいるかもしれません。他にも、運勢が悪く、友だちも長続きしない不幸な人が、開運パワーがこめられた10万円の水晶玉(ガラス玉)を買ったら幸せになれる、といわれたらどうするでしょうか? そんなものを買っても幸せになれるわけない、と思う人もいると思います。
ただ、人間の思い込みの力はすごくて、開運パワーの水晶玉を買った人は積極的に友だちを探して、いい人に巡り会えることもあります。ありがたい天然塩を買ったおかげで、病気知らずでした……という結果を残すこともあります。
でもそれは、その人の思い込みなんです。その思い込みの力を頼りに、塩を売った人、ガラス玉を売った人は、二束三文のものを高く売ることができてハッピーでしょう。これは、実際に詐欺に被害者が名乗り出てきにくいカラクリの1つです。
1つ1つのウソは、その場限りでいくらでもつくことができるけど、それを確かめるのはすごく難しいです。確実なウソが1つわかっても、他についたウソも、ウソだとはいい切れない。だから騙す人は、いくらでもその場限りのウソをつけばいいし、騙したい人にそれが届けば十分なので、なんといわれようがびくともしないのです。
実際にホンモノの詐欺師は、ウソの中に真実を混ぜてきます。例えば投資詐欺なんかは、最初は実際に儲けが出るように詐欺師がお金を払います。そうして、さらに大きなお金を投資させて、ドロンといなくなるわけです。実際に、大きな詐欺事件で捕まった女の人は、自分は被害者で、騙された人も悪い……というような無茶苦茶ないい訳をして、それが通ってしまった事例もあります。
それくらい騙しに特化した人は、人を騙すことに人生を捧げているので、騙すことにかけては天才ともいえる立ち回りができます。どんな専門家でも、その場で間違いを正して、みんなが納得して、その人がウソをついていると証明することは不可能に近いです。それが「私は霊能力があり、貴方のご先祖の霊が見えます」というバキバキのウソであったとしても、科学で立証されてないものは立証しようがないです。おそらく、ウソなんて簡単に暴けるだろ! って思う人もいるかと思いますが、人を騙すことに生涯をかけている人を甘く見てはいけません。
ウソつきはウソで人生をつくってきたプロなので、そのプロにアマチュアが同じ土俵で対決することは絶対にオススメしません。今この話題にでてきた「土俵」という概念。あとで大事になってくるので覚えておいてください。
嘘つきを100%見破る方法は?
ありません。そんな方法があるといって教えてくれる人がいたら間違いなくウソつきです(笑) しかし、ウソを見抜くこつというのはあります。
ちゃんと普通の勉強をすることです。
ウソつきのウソというのは、中学の国語、理科、社会の知識を動員すれば、おかしく見えてくるものが大半です。例えば、「スマホの電波は脳を破壊する」、「添加物は毒だから寿命が縮まる」、「ワクチンは体が弱くない毒だから打ってはいけない」など……。
添加物は毒という話に対して、病理学の医師が間違いを指摘しても、それはまだ知られていないスマホの電波の悪影響と相互作用があるんです……なんていわれてしまうと、とたんに専門から外れてしまうから、即座に否定はできなくなってしまう。もちろん電波の専門家がやってきたら、そこのおかしな点もあげつらえますが、それを見てるお客さんからすると、詐欺師は医者や電波の専門家をことごとく困らす問題提起のできる、めっちゃ賢い人に見えてしまうわけです。
これが同じ土俵で勝負してはいけない理由です。詐欺師と専門家を同じ「賛否両論」と同格にして取り上げてしまうことこそが、最もやってはいけない見世物なんです。
何千何万という研究の積み重ねを勉強し、さらに自分で新しいものを見つけるため研究に生涯をかけた専門家と、人を騙して何千万とお金をだまし取ってきた詐欺師を、「賛成派」、「反対派」として並べることがいかに危険なのかをもっと考えてほしいと思います。
詐欺師からしたら、仮にうまく論破されてしまって負けに見える結果になったとしても、ちゃんと勉強して信用を得た人と「並んだ」という事実を使って、何もないウソに「実績」を見せかけることができてしまうからです。
だから科学の知識がいっぱいあっても、プロの嘘つきに正面から正論で殴りにいくのは、それを見ている人からすると、科学のことは知ってても、いじわるな人、話の最初にでてきた「成績悪いのは勉強してないからだよ」の人になってしまうわけです。詐欺師を応援したくなる人がでてしまってもおかしくないでしょう。
SNSというやりとりが全世界の誰からもみえる世界では、圧倒的に騙す人が有利になるということがわかるでしょうか。そうなのです、科学でつくられたインターネットや賢い人が開発したネットのサービスは、詐欺師にとって最高の狩り場になってしまったわけです。
そこに、コロナ禍という、未知の病原体の世界的流行。多くの人が不安にかられ、不安を解消したい気持ちで、自分にとって都合のよい話に引き寄せられてしまう……そんな不幸が重なって、多くの人が今も騙されてお金をとられ健康を蝕まれているにもかかわらず、本人は「満足している」という恐ろしいことが起きつつあります。
さて、不安の多い世界で、それを利用して悪い人が、人を騙してお金儲けをしています。こうした「世の中の常識」に対して「実は間違っている」という理屈の場合、中学校くらいの教養があれば十分に「なんか変だよな」というのはわかると思います。でも「どこが具体的におかしい」かどうかは、実際に専門家にならないとわからないのですが、それでいいのです。
それは常識を信用するところから始まります。
常識は常識と呼ばれるまですごい苦労している
例えば、日本の水道水の安全性。これを疑う人はかなり少ないですね。実際に日本の水道水の安全基準は厳しすぎるくらいで、ボトル入りミネラルウォーターより検査が厳しいです。
それくらい安全ですから(おいしいまずいはあれど)、ほとんどの人は気にせず蛇口をひねって出てきた水を飲みます。このときに、この水はどうやってつくられてきたか、考えて安全性に納得してから飲む……という人は少ないでしょう。自分の地域の浄水場がどこにあるかもまず知らないのではないでしょう。
これは、みなさんの見えないところで、厳しい検査や調査を経て、汚水が紛れ込んだらアラートが鳴るなど、とんでもない科学の積み重ねと、それを利用した技術、勉強した専門家がいろいろがんばってくれているから、気にせずに水道水を飲めるわけです。
スマホの電波も同じです。たしかに電波の発信塔に直接抱きついたら害があるでしょう(笑) しかし、安全な距離を取れるように当然設計されています。鳥とかは一瞬近づくことはあるかもしれませんが、明らかに違和感を感じるため、すぐに移動しますから、熱傷などはまず起こりません。
ワクチンもイギリスの医師、エドワード・ジェンナーがワクチンに気づいたときから、細菌、真菌、ウイルスそれらの仕組みを解き明かし、可能な限り無害化したウイルスの断片などを体に取りこませて、感染症を予防するという概念が生まれ、人口は急激に増え、病気は相当量減りました。江戸時代やそれ以前の平均寿命や病気の多さは、今からは考えることもできないレベルです。
添加物はかつては危険なものもありました。なので、多くの事故や事件もあり、そこから何十年と規制を厳しく、安全性をチェックし、毒性学が飛躍的に進歩して安全な使用量を決めることができるようになり、その結果、添加物が原因で起きたガンとか病気とかは一切出ていません。
もちろん、そんなのはウソだということは簡単です。でもそれをウソだというのであれば、私たちの暮らしを支えるすべての科学の「常識」をつくっただけの同じくらいの膨大な研究の上で、それがウソであるというちゃんとした実験をしなくてはいけません。
その積み重ねこそが科学です。ウソは科学に対して変なことをいうのであれば、常識を支えてきた人がみんな揃って「実はおかしいかも!?」とちゃんと考えるに値するだけのデータを持ってきて、それで納得してもらって、厳しい審査を何度も受けて、長い長い時間をかけて評価しなおすように働きかける必要があるわけです。でも、そうした陰謀論を訴える人たちが、ちゃんとした学術の場でちゃんとした論文を何本も出し続け、それがちゃんと影響を与えた……という前例を見たことがありません。
そう、科学の土俵にケチを付けるなら、ちゃんとした研究をして世界中の研究者に問題提起をする、そもそもケンカ腰でケチをつけるんじゃなくて、本当に人の命を守りたいなら、普通の研究をして普通の論文をだして、普通を変えるように努力しないといけないのです。
小中で習う常識というのは、膨大な過去の科学者が残した上の「常識」です。
地球が丸いのを否定する人はあまりいませんが、実際に見たことがある人は少ないでしょう。常識を知り、常識を否定する話が出てきた場合は、すごく慎重に取り扱って、いろいろな人の意見をちゃんと見る。そして医療の話は、医学を何千、何万時間と勉強してきたお医者さんや薬剤師に聞いて、専門家を頼ればいいのです。たまに頭のおかしい医師もいますが、極めて少数です。少数派は目立ちますが、「変じゃない?」って思えれば十分なのです。
だからこそ、基本の学問ってすごく大事なのです。
なので、社会を支える普通を知るためには、最低限のお勉強はしておいた方がいいわけです。
もちろんこれだけでは、詐欺師に目を付けられた場合はそれでも十分ではありませんが、少なくとも、自分から詐欺師に騙されに行くことは減るはずです。


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