《子供の科学 深ボリ講座》もっと知りたい! プラネタリウムのお仕事いま☆むかし

『子供の科学』2023年10月号の「ここまで進化した! プラネタリウムのいま★むかし」をさらに深ボリ。本誌ではあまり紹介できなかった、プラネタリウムの解説員のお仕事について紹介するよ!

 「子供の科学」2023年10月号「ここまで進化した! プラネタリウムのいま☆むかし」では、コスモプラネタリウム渋谷で活躍する星空解説員のお二人(写真下)にプラネタリウムの歴史や技術について教えていただいた。星好きのキミにはプラネタリウムのお仕事ってすごく興味あると思うけど、そもそも星空解説員ってどんなことをするの? どうしたらプラネタリアンになれるのかな? みんなの知りたいコトをさらに深ボリしてみたよ!

村松 修さん
星空実況中継のような語り口で、最新の宇宙の姿を解説する”伝説のプラネタリアン”。アマチュア天文家でもあり、串田・村松彗星(1993年)の共同発見者としても知られる。
永田美絵さん
クスッとした笑いのある語りが持ち味の”癒しの星空解説員”。宇宙を見上げることで、地球の素晴らしさ、そこに生きる奇跡を伝えるのがモットー。

プラネタリウムのお仕事ってどんなもの?

―プラネタリウムの解説員になられたきっかけを教えてください。やっぱり子供のころから星好きでしたか?  

永田 はい。子供のころから星が大好きで、よく近所のプラネタリウムに通っていました。最初に勤めたのは渋谷の天文博物館 五島プラネタリウムで、2001年に閉館になったあと、現在はコスモプラネタリウム渋谷で解説員をしています。

村松 私は天文少年ではなかったけれど、ものづくりは好きでした。機械系の学校を出て会社勤めをしていましたが、通勤途中に五島プラネタリウムがあったのでよく行っていました。最初に興味をもったのは投影機です。何やらドームの真ん中であやしげな光を出している機械があると(笑)。そこで機械技術の職員募集があって運良く合格しました。仕事は機械の保守点検でしたが、それには天文学の知識がないと務まりません。そこで天文学の専門的な勉強を始めて、そのうち機械仕事の合間に星空解説の仕事もやるようになったわけです。

永田 当時、五島プラネタリウムではカールツァイス社製のツァイスⅣ型投影機を使っていました。技術者はドイツにいたので、何か不具合があってもメンテナンスに来てもらうのは大変。村松さんはもともとエンジニアで機械に詳しいので、ちょっとした部品なら全部自分でつくっちゃうんですよ。
 この旧五島プラネタリウムのツァイスⅣ型は、現在、コスモプラネタリウム渋谷がある渋谷区文化総合センター大和田2階に展示されています。

旧五島プラネタリウムで使われていたツァイスIV型投影機。
(写真提供/コスモプラネタリウム渋谷)

―今のようにコンピューターのない時代は、どうやって機械を操作していたのですか?

村松 昔のプラネタリウムはモータで動かしていたから、手元のスイッチ操作で星空を動かしたり、月の満ち欠けを見せたりしていました。しゃべり(解説)と機械操作を同時にこなさなければならない「二刀流」です。現在はコンピューターでプログラムを組んでおいて、ボタンを押すと天体を動かしたり、星座を線で結んでみたり、次々に用意した動きが出せる。いまやコンピュータープログラミングはプラネタリウムに欠かせない技術になっています。

永田 当時、解説台のダイヤルとボタンの名称は全部ドイツ語で書いてあって、まずその意味を覚えて機械操作をしていました。日没のシーンはSonne(太陽)をダイヤルでオンして、日周運動のダイヤルモードを回しながら、まわりの照明をちょっとずつ消して夕焼けを出す。それからMont(月)やStern(恒星)をオン、星を少しずつ増やしながらまわりの明かりを消していく……そんなふうに操作をしながら、同時に星の解説をしたり音楽をかけたり、全部一人でやっていたんですよ。

―星空番組はどのようにしてつくられるのですか?

永田 番組制作には2種類あって、それぞれの館がオリジナルでつくる場合と、専門の会社がつくった番組を投映する場合があります。当館(コスモプラネタリウム渋谷)はすべてのプログラムを自分たちでつくっています。星空解説もいろいろで、映像に合わせて個性豊かな解説員が生解説をするところもあれば、解説員はいなくて、録音した声優さんのナレーションを流すところもあります。生解説には決まった台本はないので、解説員はみんな独自に練習を重ねてアドリブを交えながらやっています。

―星空解説員というお仕事の魅力は?

永田 この仕事は、最新の天文学をいかにやさしく、わかりやすく伝えられるかが腕のみせどころ。当館のように星の解説はもちろん、機械操作から番組制作まで行うことも珍しくありません。こんなに面白い仕事ってこの世の中にあるのかと思うくらい楽しいし、星好きにはたまりません! みなさんもプラネタリウムに行かれたら、星空だけでなく、「解説員ってどんなことをやっているのかな?」って興味をもってもらえるとうれしいですね。

―将来、プラネタリウムで仕事をするにはどうしたらいいですか?

永田 特別な資格免許は必要ありません。一般公募されることが多いですが、欠員が出ないと募集がないので狭き門です。行政の広報などで求人を調べたり、いろいろな館を回って「欠員が出たら教えてください」と頼んでみるのもいいでしょう。まずアルバイトとして入って、あとで正式採用されるケースもあります。今は移動式のプラネタリウムもあるので、この仕事の需要は増えていると思います。
 プラネタリウムの仕事は、ワークショップを企画したり、声優さんのようにナレーションをしたり、多岐にわたります。最近はプラネタリウムのプログラミングをする仕事も増えているので、コンピューターが得意な人にとっても面白いと思いますよ。

宇宙で仕事をしたい人はプラネタリウムへGO!

―プラネタリウムのオススメの楽しみ方があれば教えてください。

永田 プラネタリウムに来られる方の目的はいろいろです。プラネタリウムは大人になってからも楽しめる施設ですし、ちょっと疲れたから星を見に行こうとか、もっと身近な場所になるといいですね。

村松 多くのお客さんは神話や星座などロマンを求めて来られますが、一部の方はプラネタリウム=最先端の天文知識を得たり、天文学の進歩にふれられる場所として足を運ばれるようです。現代のプラネタリウムがここまで進化できたのは、やはり天文学の進歩のおかげでしょう。宇宙開発の進歩とプラネタリウムの進化は「車の両輪」なんです。

永田 以前、宇宙飛行士の方から、何かのトラブルで機器が使えなくなったときは、星を使って宇宙船の位置を直すという話をうかがいました。私たちが北極星で北の方角を知るのと同じように、ある星にターゲットを合わせて宇宙船の位置を直すのですが、そのテクニックを事前にプラネタリウムで勉強したそうです。
 実は星座って、地球上で見ても宇宙で見ても同じように見えるんですよ。将来、宇宙に関係する仕事がしたい、宇宙旅行がしたいと思っている人は、星の位置を知るテクニックが必要になってくるでしょう。プラネタリウムはそのシミュレーションができるんです。

プラネタリウムの楽しみ方はいろいろ。星座や神話について知ったり、最新の天文学に触れることもできる。
(写真提供/コスモプラネタリウム渋谷)

―最後に、KoKaの読者にメッセージをお願いします!

永田 星空って、どこの国で見ても同じ星を見ていることになります。これからは1つの国、1人の人間ではなくて、大勢のいろんな人たちが力を合わせていく時代です。地球温暖化などいろいろな問題を解決するには、国同士で争うより、宇宙という視点からいろいろな物事を考える必要があります。星空を見上げたり、プラネタリウムで星を見ることで、そのトレーニングができると思います。

村松 今のように惑星に探査機が飛んでいく時代になると、地球を飛び出して、ある距離、ある方向の視点から見たら宇宙がどう見えるか? それを再現できるのがデジタルプラネタリウムです。今年4月には木星探査機が打ち上げられたので、それが木星に到達すればより精度の高い画像が撮れるでしょう。そこで地球以外の生命体があることがわかれば、地球人として、私たち人間もいろいろ考え方が変わってくるのではないでしょうか。

取材協力:コスモプラネタリウム渋谷 村松修・永田美絵

戸村悦子 著者の記事一覧

フリーライター。『子供の科学』をはじめ児童教育や科学分野、趣味の雑誌・専門書籍を中心に取材・執筆を行う。

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