「子供の科学(5月号)」のわくわく理科授業では,佐賀市立本庄小学校の「ゆで1グランプリ」を紹介しました。「ゆで1」に参加したい!と思ってしまうような楽しい授業でした。
この授業を行った馬場智大先生(佐賀市立本庄小学校)と共同研究をしている後藤大二郎教授(佐賀大学)に、連載監修者の野原博人教授が、授業について、そのねらいについて聞きました。

横浜市で公小立学校の教員を20年余り務め,2021年より現職。佐賀大学大学院学校教育学研究科(教職大学院)教授。博士(教育学)。研究テーマは理科教育、STEAM教育。子供の頃,「子供の科学」を愛読していて,6年生の時に「ぼくの発明 きみの工夫」のコーナーにアイデアが掲載された。
写真右:馬場智大先生(佐賀市立本庄小学校)
佐賀県で公小立学校の教員を10年務め,現在11年目。佐賀大学大学院学校教育学研究科の後藤大二郎教授と共同研究をしている。2022年ICT夢コンテスト・宮島龍興賞受賞。
ゆで1グランプリができるまで
野原:学校の授業でも遊びの要素を取り入れていくことで,子どもの主体性を引き出していくことができる、誌面で紹介した「ゆで1グランプリ」はまさにそういった展開でしたね。印象的なエピソードや子供の姿、ゆで1グランプリを計画した意図などを教えてもらえますか。
馬場:休み時間に「ゆで1」の会場でパラシュートを落下させたり,自分と他のクラスがどうなっているのかを比べていたり,とても主体的に取り組んでいました。ゆで1グランプリは5年生の6月に行いました。その前の学習は「植物の成長と発芽」で、「条件制御」という考え方を働かせていくことが大事になってくるのですが,子供にはなかなか浸透していなかったので,後藤先生と相談してゆで1グランプリを計画しました。1個の羽を追加してすぐ飛ばす、1つ変えて1つ結果が出るというように、条件制御を理解しやすい単元になるのではないかなと考えました。
野原:条件制御は、5年生で主に働かせていきたい理科の考え方ですが、後藤先生は、ゆで1グランプリのことをどのように考えましたか。
後藤:授業の前に話を聞いた時は、ものづくりをしながら、それを改善していくプロセスなので、条件を変えながらチャレンジしていくことが、条件制御を学ぶ学習として充分成立するだろうなと思いました。馬場先生は、教科書にもない実践なので不安そうでしたが、条件制御という考え方をしっかりと前面に出して説明できるような単元にしていけば問題ない、という話を馬場先生にしました。
授業を見に行った時に、馬場先生は、ある子がゆで1用のパラシュートのクッション部分を一つずつ変える、つまり条件を一つ一つ変える取り組みをクラス全体に紹介していました。馬場先生は子供との関わりの中で自然と「条件」に目が向くような指導をされていたんですよね。また、子供が「失敗したらその結果は書いたほうがいいですか」と質問した時に、馬場先生が「書きましょう」とすぐ答えていました。失敗したデータは次の条件を変えた時の記録と比較することに繋がりますし,記録は重要ということも伝えて,条件制御を意識しながら授業をしているなと感じました。
まとめの過程では,空気・クッション・スピード・風・持ち手・持ち方など、いくつかのキーワードが模造紙に書いてあり、自分のパラシュートの装置をどういう風に工夫していくか、そのキーワードを使いながら考えていくようにしていました。最後にみんなで共有するときは、子供が司会をしながら学級会みたいな感じで進めていました。
野原:馬場先生は授業に入る前に、パラシュートの装置をご自身でもつくったのですか。
馬場:「単元開き」(※1) のために何個かつくりました。この形だったらA4のコピー用紙3枚でつくれて、残り2枚をクッション部分に使えるなとか、私のつくった装置を見て子供たちが考えられるように、あえて少し雑につくりました。
野原:子供が発想しやすくなるように工夫したのですね。結果として、どういった形状が優秀な成績を収めたのですか。
馬場:卵が床に接地する部分のクッションの量が多い装置が、卵が割れず、成功する傾向がありました。
野原:空気抵抗は?
馬場:空気抵抗で考える子もいました。パラシュートにするのか、パラシュートを使わないのか、ということを考える中で、筒だけの装置が実は結構成功率が高い結果になりました。その子たちは「卵を筒の真ん中の位置にするんですよ。落ちた時にここ(真ん中)にあるから」と説明してくれて、「じゃあ真横から落ちたらどうするの?」と聞いたら、「本体が筒だけだから、余った用紙で、卵をぐるぐるに包んで守っているので、大丈夫です」とドヤ顔で話してくれて(笑)。
野原:パラシュート派はどんな主張だったんですか。
馬場:パラシュートは、やはり落ちるときが静かだといっていましたね。落とし方の違いで安定してくる。「筒は落ち方が変わるからパラシュートの方が良いんだよ」といっていました。
野原:後藤先生だったらどんな風につくりますか?
後藤:筒にするのは僕の頭にはない発想だったので,やってみたいなって思いましたね。大人だから頭が硬いのかもしれないけど(笑) あと、きれいなパラシュートをつくってみたいなって思いますよね。速さとかでなくて,安定してスーッと落ちていくパラシュートができたらかっこいいなって思いましたね。
野原:使用する用紙はあえて普通紙にしたのですか。
馬場:A4用紙5枚で設定したのですが、いろいろな厚さの紙を用意しておきました。
野原:先ほどの後藤先生の話を聞いて、僕もそう思うんですよ。きれいに落としたい(笑)。そうなると紙だけでは実現できないかもしれないから、他の物を使いたいって考える。例えば不織布とか。
馬場:子供たちは風が欲しいといっていました。自然な風が良いとか、送風機がほしいとか。数名の子が「先生、ここはエアコンの風があって,僕のパラシュートはこの場所が良いです」といっている子供もいました。
野原:そういう条件にも目を向けるのですね。落下運動、空気抵抗、衝突やエネルギーの見方も関わってきそうですね。中学校や高校の理科の学習内容や、その先に科学にも関連している活動になったようですね。
※1 単元開き:新しい学習単元の冒頭に、教師が「学習のめあて(課題)」や「魅力的な言語活動」を提示し、児童・生徒の知的好奇心を刺激して「やってみたい」という意欲を引き出す重要な導入授業のこと。
主体的な学びを実現する理科授業づくり
野原:学習指導要領では理科の見方・考え方を働かせて、資質・能力を育成することが大切にされていますが、馬場先生は理科の授業づくりでどのようなことを大切にしているのでしょうか。
馬場:自然の事物・現象に没頭できるようにしたいな、というところをすごく考えています。私自身が子供のころに「理科」が心の底から大好きとか、すごく得意とか、そういう感じではなかったこともあり、自分みたいな子供でも、しっかり没入できるようにしたいと思って授業をつくっています。
野原:いつもの理科の授業づくりではどのような工夫をされているのですか。
馬場:単元開きでは、一つの事象だけではなく “手数を打つ”、つまりいろいろな事象を提示しています。一つの事象だけでは興味を持たない子もいるだろうと考えていて、“パーティーの始まり”のように、この単元に関するものがいっぱいある!というワクワク感を大切にしています。
野原:準備するのが大変じゃないですか? いつもどこからネタを準備してくるのですか。
馬場:SNSなどです。このような単元開きを取り組み始めたころ、やはり大変だったので、いつもおもしろいものを自分で集めておいたり、教員同士で共有したりするようにしました。常に完全なものを提示しなくても、不完全なものや未完成なものでも良い、と思えるようになりました。例えば「なぜこれは正しく動かないのか」というような事象の紹介でも、良い単元開きができるようになりました。
野原:馬場先生の話を聞いていてが理科の授業づくりを楽しんでいるんだなと思います。授業のゴールも想定しながら授業をつくられていますよね。
馬場:そうですね。子供には明確な目標となるものを提示してあげたいと思っていますが、最近ではゴールを子供に委ねてあげたいと思うようになりました。
野原:どんな場面で委ねるのですか。
馬場:それまでは「この単元ではこういう物をつくるよ」と提示する授業をしていたのですが、そんな中で子供たちから「こんな実験をしてみたい」という声が出ます。その声に私が「ありだよ」といえるようになってから、子供の「問い」がおもしろい方向に進んでいくようになりました。子供の主体性や、わくわく感が見て取れたので、委ねるようなやり方でやろう、と思うようになりました。ゴールの形は示すだけど、子供たちは自分でその道を決める。
野原:実験をして、同じ結果をみんなで共有しながら問題解決をしていく、という進め方が理科の授業では一般的かと思います。しかし、子供の主体性に委ねながら、子供の発想を生かした実験方法で進めていくと、いろいろな結果が出てしまうことがあると思いますが、馬場先生は授業中に子供と一緒にどのように整理していくのですか。
馬場:実験方法を決めるときは、最初に子供に委ねるのですが、委ねたままにはせず、子供たちの中に入るようにしています。「これで大丈夫」「こういうものがないのでは?」というように声をかけるようにしています。
また「もみじ」という合言葉を理科室に掲示しています。科学的な実験についての合言葉で、「も」はもう1回(再現性)、「み」はみんなはどうかな(客観性)、「じ」は自分で確かめる、というものです。例えば、自分は上手く結果が出なかったのだけど、他の子はどうかな?という意識を自分から持てるようになってほしい。そういうことに子供自身で何か気づいてくれたら、と思って合言葉にしました。子供たちにも浸透してきていて、教える側が無理強いすることなく、科学的な見方を子供と確認できるようになりました。

野原:後藤先生は馬場先生の理科授業をいつもどのように見ているのですか。
後藤:まず、子供たちがとてもおもしろそうに理科をやっています。理科室に来るまでの廊下などに、これまでの学習の履歴になるものや、子供たちがつくったものなどを馬場先生が準備して並べていて、子供たちはそれを触りながら理科室に来る。その時点からワクワク感がたとまらない。そんな感じがあります。
馬場先生がいっていた、事象をたくさん提示するということについては、以前、私は「それはよくないかな」という話をしていました。でも馬場先生が「子供の姿が全然違うんですよ」と。実際に子供の姿を見ると、こんな風になっていくのか…という様子を目の当たりにしました。具体的にいうと、ある事象に引っかかる子と、引っかからない子がいるんです。ある事象に引っかからない子でも、どれか別の事象に引っかかる。これはあまり興味ないけど、こっちはおもしろそうだなとか。個人のバラバラなところは、それぞれバラバラなままなのだけど、みんな同じ熱量になって授業の単元に入っていける。そういう良さをすごく感じます。それがすごくおもしろいなって思っています。
ただ、大変そうだなと思います(笑)。馬場先生の熱量で維持している部分があるので、これを全国の先生たちの、どの教室でも同じように実践するのは難しい。一般的な方法ではないのかもしれないけど、確実に本庄小学校の子供たちの理科に関する関心が高くなっているし、子供の目の輝きが一味も二味も違うなと思っています。
もう一つはゴールです。馬場先生も子供に委ねるようになってきたので、子供たち一人一人の中で「この時間はこれをやるんだ」というのはわかって学習しています。それがつながっているところにゴールを設定し、子供が「今日はここまでわかったけど、次これやるんだよね」っていう見通しが持てるように授業をしているのが見えます。子供たちが主体的になる、自分で前に進んでいける手立てになっているのだなと思いますね。



ものづくりとSTEAM教育
野原:今回、佐賀を訪れてみて「ものづくりの街」だなとすごく思いました。佐賀城に行くとアームストロング砲が置いてあります。日本で初めて実用反射炉がつくられたのは佐賀藩。歴史的に見ても、ものづくりをすごく大事にしてきた地域なんだと感じました。馬場先生の話を聞いていても、まさにものづくりにつながっていますよね。
後藤先生はSTEAM教育の研究に取り組まれています。STEMA教育との関連から馬場先生の授業について、後藤先生のお考えを教えてもらえますか。
後藤:理科では自然事象をどのように理解しているのかを大事にしたいので、教科書だけでは学べないと思っています。実際に手で触って試してみて、匂いや手触りとか五感を働かせることを理科では何よりも大事にしてほしい。科学的に物事を分析的に見ていく上で、ものづくりは欠かせないと思っています。馬場先生の授業でも、実験することの意味が動機づけられた活動の中で、より重層的に概念化していく。知識がネットワークされていくような授業になっているとすごく感じています。
「ものづくり」では、つくって、つくり替えて、ということがすごく大事だと思っています。「これだとどうだろう」「ちょっと違ったから変えてみようと条件制御しながらやっては試し繰り返すところが、ものづくりをする上ではすごく大事なんですね。ゆで1グランプリでクッションをつくっている子供がいましたが、これは自動車のエアバッグにもつながる発想です。月や火星に探査機が打ち上がって着陸する時に足場の悪いところでも着地できるようにする技術は、いま世界中で競っています。まさに宇宙分野の最先端で行われていることにつながってくる。すごくワクワクする話なんだと思いながら見ていました。
馬場:そこまで行ければ素敵ですね。
野原:後藤先生が出版されたSTEAM教育に関連する本を紹介していただけますか。
後藤:小学校理科でどのようにSTEAM教育を取り入れていくのかあまりよく知られていないと思います。書籍「STEAM教育大全」ではそこを整理して、STEAMの5つの定義から始めました。
理科はサイエンスですが、理科と科学は違うところがあって、例えば問題解決ではエンジニアリングの思考が入っていたり、自然を愛する心情という事だとリベラルアーツやアートに関わる部分も多いのです。また、STEAM教育では探究的な学習のプロセスを定義しています。探究的な学習を行なっていく中で、思考が広がる部分と収束する部分があり、広がることと、まとまることを繰り返して行く。そこがSTEAM教育では大事だと思っています。
ゆで1グランプリでも、どうしたら良い装置ができそうかを考え、「これだ」ということを一つ決めたら、まずその形で収束させてみる。さらにそれを改良していく過程でまた広がり、最終的にグランプリ当日にはこの形でいくぞ、というふうに収束させていく。このように広がり、まとまるという過程が子供たちにもあったと思います。
野原:馬場先生はSTEAM教育をどのように意識して取り組んでいるのですか。
馬場:後藤先生から教えていただくまでは、単元をつないでゴールをつくる、というような授業のイメージだったのですが、今は単元を作る時に、他の教科と子供たちの問いがうまく繋がればいいかなって思っています。あとは物を触ったり、つくったりする時、子供がどんどん思考を重ねて再試行したりしていくので、そこは価値があるかなと思います。

「理論と実践でみるSTEAM教育大全」
後藤大二郎、米田重和(編・著 明治図書出版)
この書籍は、先生がSTEAM教育を知り、授業実践できるようになるための一冊です。STEAM教育は、教科横断的な視点から、実社会につながる課題を扱った探究的な学習の総称です。理論編ではSTEAM教育が広がってきた歴史や、デザイン思考などの学習プロセスの整理をしました。実践するためには授業の目標になる資質・能力を整理したり、単元を計画する必要があります。そのための「資質・能力表」「単元デザインシート」の作り方を説明しています。さらに、実践編として小学校3年生から6年生までの実践事例も掲載されています。馬場先生には、「空気、水、金属で温度計をつくろう」「プログラミングで節電・節水をしよう」の2つの事例を紹介してもらいました。STEAM教育に興味がある先生はもちろん、総合的な学習の時間や理科の授業など、工夫して取り組みたいと考えている先生にもヒントが散りばめられています。ぜひ手に取って授業づくりに生かしてください。(後藤)