地震計で計測! 微振動からわかった新型コロナウイルスの人間活動への影響

 地震計
じしんけい
で地震以外の振動
しんどう

はか
る。そんな発想から、新しい研究が行われています。
 地震計にはいろいろな種類がありますが、微弱
びじゃく
な地震の振動をも
とら
えるために設置された高感度の地震計は、地震の
れだけでなく、人間のさまざまな活動にともなって発生する微振動
びしんどう
も捉えることができます。

東京駅前を行きかう人々。私たちの普段
ふだん
の活動からも微振動が発生している。

 産業技術総合研究所の活断層
かつだんそう
・火山研究部門・地震災害予測研究グループの二宮啓研究員、九州大学地球資源システム工学部門の辻健教授、池田達紀助教らは、首都圏
しゅとけん
に設置されている地震計の観測データをもとに、新型コロナウイルスの感染
かんせん
がひろがったことで社会活動が低下したことを示しました。

 東京とその周辺には、防災科学技術研究所の首都圏地震観測網
しゅとけんじしんかんそくもう
MeSO-net(メソネット)と
ばれる地震観測網が設置されています。観測地点は、3~10km間隔
かんかく
で約300か所に設置されており、今回はそのうちの101台の地震計が観測した過去4年分ほどのデータを使用しました。

今回の研究で使用した首都圏地震観測網の観測点。東京を中心にその周辺の観測地点のデータが使用された。(画像提供/国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

 これらのデータから、季節変動などによるノイズを取り
のぞ
くことで、新型コロナ感染拡大の影響
えいきょう
による人間の活動の変化を調べました。研究グループは観測点ごとに振動の強さを表す量(パワースペクトル密度
みつど
という)を計算しました。最初に新型コロナ発生前のデータだけを使って計算し、新型コロナ発生以後の振動データと比較することで、新型コロナ発生による影響のみを取り出しました。

 その結果、2020年春の学校休校と1回目の緊急事態宣言
きんきゅうじたいせんげん
、2021年初めの2回目の緊急事態宣言などと関連して、人間の活動による振動の大きさが変化しているようすが明らかになりました。下の図から、新型コロナ感染のひろがりと人間の活動には関連があることが読み取れます。

全観測点の中間値
ちゅうかんち
を使って、新型コロナ感染症対策
かんせんしょうたいさく
と人間の活動による振動の関係を示したもの。上の図の黒い折れ線グラフは感染者数の推移
すいい
。下の図の青い折れ線グラフは平日、赤い線は日曜日の振動の大きさの推移を示したもの。(画像提供/国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

 1回目の緊急事態宣言のときは、平日・日曜ともに人々の活動が減りましたが、2回目のときは、日曜は減ったものの平日は減らなかったことがわかります。研究グループは、2回目は人々に「慣れ」が出たのではないかと分析
ぶんせき
しています。

 今回の研究によって地震計を活用することで、首都圏の人の動きの変化を
くわ
しく読み取れることがわかりました。研究グループは今後、
せま
範囲
はんい
精密
せいみつ
な観測を行うことで振動源
しんどうげん
を特定したり、防犯システムや交通量調査などにも役立てていきたいと考えています。

白鳥 敬 著者の記事一覧

サイエンスライター。1953年、富山県生まれ。成蹊大学文学部卒。出版社の編集者を経て、科学技術分野の執筆活動を行なっている。自然科学から工学まで幅広い分野が対象で、航空分野にはとくに造詣が深い。

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