ねじって折り曲げることができる厚さ3μmの超薄板ガラス

ガラスに粘性が出るよりも低い温度で引き伸ばす

 ガラスというと、強い力が加わるとひびが入ったり割れたりする硬い材料をイメージします。しかし、厚さ10μmマイクロメートル)くらいの薄さにすると柔軟性が出てきて、曲げたりねじったりしてさまざまに変形させることができ、高度なマイクロ流体デバイス、電子デバイス、光学材料などに応用できます。

 通常、薄いガラスは、柔らかくなる軟化点
なんかてん
塑性変形
そせいへんけい
ができるようになる温度)よりも高温に加熱して引き伸ばしてつくられています。しかし柔らかくなったガラスには粘性
ねんせい
があるため、薄型化には限界がありました。

 理化学研究所生命機能科学センター集積バイオデバイス研究チーム田中陽
たなかよう
チームリーダー、エン・ヤーポン研修生、ヤリクン・ヤシャイラ客員研究員たちの研究チームは、ガラス軟化点よりも少し低い温度で時間をかけて引き伸ばすことで、厚さ3μmという超薄板ガラスの作成に成功しました。髪の毛1本の太さが0.08mmくらいですから、その3分の1ほどの薄さです。

真空炉で軟化点よりも少し低い温度で時間をかけて伸ばす。治具にとりつけたガラスをおもりで引っ張るという単純な方法だ。おもりの重さを変えることで薄さや形状を制御できる。(画像提供/理化学研究所)

超薄型ガラスはこうやってつくる!

 研究チームは、厚さ30μm・幅30mm・長さ5mmのホウケイ酸ガラス(台所用品などでよく使われているガラス)板の両端に、耐熱接着剤で丈夫な支持部をとりつけて吊り下げ、下側には金属製のおもりをつけました。

超薄板ガラス作製のコンセプト。厚み30μm、幅30mm、長さ5mmのガラス板の両端に、耐熱接着剤でホルダーとなる厚いガラス板を接着し、そのホルダーに穴を開けてこれをカーボン製のジグ(治具)に吊り下げる。反対側のホルダーには金属製のおもりを取り付け、張力を調整する。(画像提供/理化学研究所)

 これを真空炉に入れ、ガラスの軟化点(736℃)よりも低い690℃まで2時間半かけて徐々に加熱して1時間保ち、その後2時間半かけて520℃まで徐々に温度を下げ、さらに5時間ほどかけて自然冷却させて常温にすることで、厚さ約3μmのガラス板を作成することに成功しました。これまでの最薄は4μmでしたが、これよりも薄くできました。

 厚さは両端部で3.65と3.75μm、中央部分は3.03μmでした。また、表面の凹凸は2nm(ナノメートル:ナノメートルは10億分の1m)と非常に平滑
へいかつ
であることも確認されました。

 この製法ではおもりの重さを変えることで、ガラスの厚さ・長さ・幅をコントロールできるため、用途に合わせた最適なガラスをつくることができるそうです。

 また、この超薄板ガラスは圧力センサーとしても使えるといいます。超薄板ガラスを左右から支え、圧力が加わってたわむ量から、圧力の大さを測定できることも確認されました。透明なガラスによる圧力センサーが実現すれば、圧力を変化させながら、対象物を観察するといったことができるようになります。実用化されれば産業への幅広い応用が可能となるでしょう。

白鳥 敬 著者の記事一覧

サイエンスライター。1953年、富山県生まれ。成蹊大学文学部卒。出版社の編集者を経て、科学技術分野の執筆活動を行なっている。自然科学から工学まで幅広い分野が対象で、航空分野にはとくに造詣が深い。

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