《子供の科学 深ボリ講座》鉱物学は奥が深くておもしろい

 子供の科学2023年3月号の「見るだけでも楽しい! 探すともっと楽しい!! 鉱物超入門」特集では、鉱物が持つ色彩
の美しさや驚きの形、生活に役立つ使われ方など、鉱物の魅力をたっぷりと紹介しています。本誌で取材に応じてくださった国立科学博物館の門馬
もんま綱一
こういち
先生からは、「鉱物が好きだったら、鉱物少年から鉱物学者を目指してください」とのメッセージをいただきました。そこで門馬先生のお話をもとに、鉱物のおもしろさからもう一歩踏み込んで、「鉱物学」のおもしろさについて深掘りしてみたいと思います。

(1)多くの鉱物は「生まれる場所」で見つかるわけではない

鉱物が生まれる場所(イラスト)
鉱物が生まれる場所(3月号特集「鉱物超入門」15ページより)

 鉱物は地下の岩盤中や地表、海底や湖底など、いろんな場所で生まれます。もし皆さんが「鉱物を採りたい!」と思ったら、そのような「鉱物が生まれる場所」を探すのが一番良さそうですね。

 でも、私たちが目にする美しい鉱物標本の数々は、鉱物がもともと生まれた場所、たとえば地下深くの岩盤中から直接採掘
されたわけではありません。多くは、生まれた場所に比べればもっと地表に近い、人間の手が届きやすい(穴を掘って到達
しやすい)場所で採掘されています。

 実は、鉱物の生い立ちを考えるとき、「鉱物が見つかる場所と鉱物が生まれた場所は同じではない」という点がとても大事なのです。
 具体的に、ダイヤモンドを例に考えてみましょう。

ダイヤモンドの結晶
ダイヤモンドの結晶(写真撮影/門馬鋼一)

 ダイヤモンドの鉱床
こうしょう
(ダイヤモンドが採れる場所)のうち、代表的なタイプの一つに「二次鉱床」と呼ばれるタイプがあり、おおよそ次のようにしてできます。

  1. ダイヤモンドを含む岩石が風化してボロボロに崩れ、土砂になる。
  2. その土砂が、川に沿って水と一緒に流される。
  3. ダイヤモンドは他の鉱物に比べると少し重いので、川の中で流れにくく、川底の深くなった部分などに溜まっていく。
  4. このようにしてダイヤモンドが特定の場所に多く溜まると、その場所がダイヤモンドの鉱床になる。

 ダイヤモンドはこうした場所で見つかることが結構あるのです。川の水によって遠くから運ばれてきて、運ばれた先で溜まり、それを人間が採掘しているわけですね。

 実際、19世紀半ばまでは上記のような二次鉱床でしかダイヤモンドは見つかっていませんでした。現在では一次鉱床、つまりダイヤモンドが生まれた元々の岩石からなる鉱床での産出量が、二次鉱床での産出量をはるかに上回っているという状況です。

さて、それでは、ダイヤモンドは元々どこで生まれたのでしょうか。

(2)行ったことも見たこともない地下深くで起きていること

 ダイヤモンドは、地表ではできません。地下150kmより深いところが主な生成
場所です。「地下150km」がどれくらい深いかというと、これまでに人類が地面に穴を掘って到達できた深さが、せいぜい地下12kmまで。ダイヤモンドが生まれる場所は、とんでもなく深い場所なのです。

人類が穴を掘って到達できた最大の深さは地下約12km。ダイヤモンドが生まれる場所はそれよりもずっと深く、地下150km以上。

 

 こういうわけですから、ダイヤモンドの「生まれる場所」を見た人は誰もいません。にも関わらず、どうして「地下150kmより深いところが主な生成場所」だと言えるのでしょうか。
 実は、これこそが、鉱物学の研究の成果なのです。ダイヤモンドの結晶構造を詳しく調べたり、合成実験を繰り返したりする中で、ダイヤモンドが生まれる場所の条件(温度や圧力、必要な化学成分など)が明らかになり、それら科学的な根拠に基づいて推定されているのです。

ダイヤモンドの結晶構造
ダイヤモンドの結晶構造

 もちろん、ダイヤモンドの研究は鉱物学のほんの一部。同じくさまざまな鉱物を研究することで、行ったことも見たこともない地下深くで、どんなことが起きているかがわかるようになるのです。図鑑や教科書で地球内部の様子がもっともらしくイラストで描かれているのは、このような研究の積み重ねの結果なのです。

(3)岩石の年代がわかれば、地球の歴史がわかる

 鉱物学によって、行ったことも見たこともない場所(地球内部)のことがわかるというのは、とてもおもしろいことですね。人類が鉱物学というツールを手にしていなかったら、地球内部のことを知る手がかりは、今よりもずっと少なかったはずです。

 そしてさらにもう一つ、鉱物学のおもしろいところは、鉱物を調べることで地球を構成する岩石の「年代」がわかるという点。
 ジルコニウム、ケイ素、酸素を主成分とするジルコンという鉱物があるのですが、岩石中のジルコンを調べると、その岩石がいつごろできたか(何千万年前、何億年前など)が特定できるのです。岩石の生い立ちがわかるということは、それはそのまま、岩石でできている地球の生い立ちがわかるということ。
 鉱物学は、地球内部の様子に加えて、地球の過去のこと(地球の歴史)までも明らかにする学問なのですね。

ジルコンの結晶
James St. John Attribution (CC BY 2.0)

(4)鉱物学者は、失われた文明の「単語」を明らかにする

 何千万年前、何億年前の過去の地球というのは、究極の「失われた文明」です。過去の地球で何が起こっていたのか、それを知ることで、私たちの文明のルーツである大陸や生命の生い立ちに迫れるからです。
 この壮大な物語を紐解くには、鉱物学だけではなく、岩石学、地質学といった他の分野の学問との連携が欠かせません。そこで、「過去の地球」という物語を読むために、それぞれの学問分野の研究者がどのような役割を果たしているか、文学作品に喩えて整理してみたいと思います。

 まず、原子を「失われた文明」の文字とするなら、原子の並んだ鉱物は、単語です。そして、鉱物が集まった岩石は、文章。岩石が積み重なった地質が、物語(文学作品)ということになります。

原子文字
鉱物単語
岩石文章
地質物語(文学作品)

 このような大きな枠組みの中で、「失われた文明」の単語の意味を明らかにするのが鉱物学者、単語をつなげて文章を読み解くのが岩石学者、さらに、文章をつなげて物語(文学作品)を読み解くのが地質学者、というわけです。

原子文字
鉱物単語鉱物学者
「失われた文明」の単語の意味を明らかにする
岩石文章岩石学者
単語をつなげて文章を読み解く
地質物語(文学作品)地質学者
文章をつなげて物語を読み解く

 これが学問的な大まかな位置付けであり、鉱物学者、岩石学者、地質学者が連携することで、初めて地球の歴史が読めるようになるのです。
 原子を文字とする「地球語」で読めば、「地質」という作品が読める、というわけですね。その作品は、過去の地球という「失われた文明」をつづった物語……。何とも壮大な、ロマンあふれる研究だと思いませんか。

 鉱物学の知識が深くなるほど、「石が語ってくれること」が増えていき、同じ石を見てもいろいろなことがわかるようになります。鉱物学は本当に奥が深くておもしろい学問です。

渡邉克晃 著者の記事一覧

サイエンスコミュニケーター。地質・鉱物写真家。1980年三重県生まれ。広島大学にて博士(理学)の学位を取得後、物質・材料研究機構(NIMS)、東京大学地球生命圏科学グループ、原子力規制庁長官官房技術基盤グループにて地球科学分野の研究に従事し、2020年よりフリーランス。
ウェブサイト:地学博士のサイエンス教室 グラニット https://watanabekats.com/
著書:『美しすぎる地学事典』(秀和システム)、『もしも、地球からアレがなくなったら?』(文友舎)、『地学博士も驚いた!ヤバい「地球図鑑」』(青春出版社)、『ふしぎな鉱物図鑑』(ビジュアルだいわ文庫)、『身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた』(ベレ出版)

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