ビーカーくんと探検!わくわく理科授業 第4回 八重山の環境から学ぶ「海洋教育」って何?

「子供の科学」2026年2月号の「わくわく理科授業」では,沖縄県の竹富町立竹富小中学校の海洋教育の取り組みについて紹介しました。竹富町は日本最大のサンゴ礁海域などに恵まれた海洋環境は有名です。また,豊かな自然環境の中で育まれた伝統文化も継承されています。

竹富町では平成23(2011)年3月に日本で初めて「竹富町海洋教育基本計画」を策定し,海洋教育の充実に向けたさまざまな活動に取り組んできました。ここでは,「海洋教育」ではどのようなことを学ぶのか,理科の学びと海洋教育のつながりなどについて紹介します。ぜひ保護者と一緒に読んでみてください。

竹富小中学校の海洋教育

 まずは,竹富小中学校の海洋教育の取り組みについて,もう少し詳しく紹介していきます。竹富小中学校では「Act For Future 〜Think Globally, Act Locally 今の私たちができること 未来へつなげよう,大好きな竹富島」というテーマで海洋教育に取り組んでいます。ビーチクリーン,もずくやアーサ採りなどの体験活動や,種子取祭などの地域行事への参加,防災訓練などを通して,海洋教育に取り組んでいます。

竹富の海を守るためのビーチクリーン活動。海の状況を肌を感じることで、環境問題に対する意識も高まっていく。

 

 海洋教育では地域と連携していくことが大切です。竹富小中学校では,海洋教育サポーターである地域の方々が学校の授業でサンゴの生態についての講話やシュノーケリング体験学習などに関わっています。また,竹富島では種子取祭など地域行事が盛んです。地域行事に参加する準備として児童・生徒が地域の方へのインタビューを行い,竹富島の歴史や文化を継承することも大切にしています。

竹富町の環境から学ぶ海洋教育。島の周囲にあるサンゴを知るために、シュノーケリングをしながら観察する
竹富島の伝統的な祭り「種取祭」(タナドゥイ)。地域の人とともに参加し、竹富の文化を知り、継承していく。

 竹富小中学校の海洋教育の取り組みで大切にしているのは「探究の過程」を重視した学習です。海洋教育サポーターの方々の講話から児童・生徒がテーマを設定し,地域の方々との交流や体験活動を通して必要な情報を集めて整理し,学んだことを発表する,という探究の過程は学びを深め,広げていく上でとても重要なプロセスです。

海洋教育を通して学んだことをポスターで発表。町内の人や観光で訪れた人にも見てもらう。

「サンゴの現状」を調べる

 「サンゴの現状」というテーマを設定した生徒の学びを紹介します。海洋教育サポーターの方々の講話やシュノーケリング体験を通してサンゴの白化率が大幅に悪化したということを知った生徒は,白化につながる要因について調べました。

 サンゴはクラゲやイソギンチャクの仲間で刺胞動物という種類に分けられます。刺胞とは体の表面のごく小さな毒針のことで,1/100から1/10 ミリ程度の小さなカプセルに入っていて,刺激を受けると飛び出して触った相手を突き刺します。刺胞動物は,口はありますが肛門はないため,袋のような体のつくりになっています。触手でとらえた食べ物は口から胃に入り,ふんを口から出します。

 刺胞動物のサンゴには褐虫藻という小さな単細胞の植物を体の中に多く住まわせています。褐虫藻はサンゴと共生する植物プランクトンです。褐虫藻は,サンゴから出る二酸化炭素を利用して光合成を行い,酸素などの生成物をサンゴに渡す役割をしています。

 褐虫藻はひとりで生活していると,他の生物に食べられてしまう危険があります。また,周囲の栄養分を使い果たしたり,成長の際に作られる生産物がたまったりしてくると褐虫藻にとって有害になることもあります。サンゴの中で共生していれば,こうした環境から褐虫藻は身を守ることができるのです。褐虫藻が必要とする栄養分(ミネラル)はサンゴからもらえます。また,褐虫藻にとって有害な生産物もサンゴにとっては栄養になるので,サンゴが引き受けて取り除いてくれます。こうしたサンゴと褐虫藻の共生関係は環境の変化によって,褐虫藻がサンゴから追い出されてしまうことで,サンゴが白色に変化してしまう「白化現象」が起こります。白化を起こしたサンゴは,褐虫藻が回復しなければ,栄養失調になって死んでしまうこともあります。

 このような「サンゴの白化現象」を海洋教育サポーターの方々の講話やシュノーケリング体験を通した海中の環境調査で知った生徒は,白化につながる要因について考えました。そして,生徒は温暖化現象,生活排水による汚染,日焼け止めによる汚染などが要因であるとして,「自分たちにできること」として,省エネの製品を選ぶ,冷房はつけっぱなしにしない,プラスチックより木の製品,高くても長持ちするものを使う,などと解決策について,自分の考えを発表することができました。

 竹富島の海に実際に行き,サンゴの現状を観察し,白化現象が起きている様子から白化の要因に関する情報を集めて整理し,自分事として実現可能なことを考え,発表を通して伝えていく,といった学習はまさに探究の過程と言えるでしょう。竹富小中学校が目指す「Act For Future 〜Think Globally, Act Locally 今の私たちができること 未来へつなげよう,大好きな竹富島」というテーマに合った海洋教育の成果と言えます。

 本記事のための取材時には,海洋教育について生徒に話を聞くことができました。生徒たちは活動内容を楽しそうに語っていました。単に海や自然について学ぶのではなく,「海や文化,島の未来をより良くするための活動」であると位置付けていました。

 企業と連携したエシカルツアーやエシカルショップ,ビーチクリーンで集めた廃材を利用したキーホルダー製作などの様々な活動について,生徒たちは「島に貢献できてうれしかった」「島の人や全国から来た人が喜んでくれてうれしかった」「自分たちで考えて島のために活動できたことがやりがいだった」と話していました。こうした生徒の振り返りから,竹富小中学校の海洋教育は,児童生徒が地域課題を自分事として捉え,主体的に行動する学習を育む学習となっていることがわかります。自ら考え,他者と協働しながら地域に働きかける経験は、社会の中で自らの役割を果たそうとする態度や、地域貢献の意識の形成にも影響を及ぼしていることがうかがえます。

海洋教育って何?

 海洋教育とは,「海と人との関係を理解し,海と人との共生をめざす人を育てること」を理念とする教育です。「海に親しみ」「海を知り」「海を守り」「海を利用する」という学習を通して,海と人との共生を実現できる市民を育てることが目標とされます。

 日本は海に囲まれた島国です。わたしたちは海から様々な恩恵を受けて生活を送っていますが,環境,防災など海に関わる課題も多くあり,海と共生していくことが求められています。日本では2007年に「海洋基本法」が制定され,その後の海洋基本計画の中で,「海洋に関する理解増進」のために学校でも海洋教育を推進することが明記されました。そこから「海と人の共生」を理念とする定義が広がりました。

 近年の海洋教育への関心はアメリカ合衆国(以下,米国)で確立,普及した「海洋リテラシー」から始まります。1990年代の米国では,学校教育において海洋関連の学習内容が不足していることが問題視されていました。米国海洋教育者学会(NMEA)などの機関などで議論が重ねられ,『Ocean Literacy: The Essential Principles and Fundamental Concepts of Ocean Sciences K–12』(以下,Ocean Literacy)がまとめられ、7つの原則と45の基本概念が身につけるべき内容知識として提示されました。

●海洋リテラシーの重要原理

1.地球は,多くの特徴を持つひとつの大きな海洋を持っている。

2.海洋と海洋の生命が,地球の特徴を形づくる。

3.海洋は,天候や気候に大きな影響を与えている。

4.海洋は,地球は生物が生息できる場所になっている。

5.海洋は,素晴らしい生命の多様性と生態系を支えている。

6.海洋と人間は,互いに分かちがたい関係にある。

7.海洋は,今もなお大部分が探究されていない。

 この7つの海洋リテラシーの重要原理は,海洋教育を通して育む能力と捉えることができます。リテラシーとは,もとは読むこと,書くことの能力として表されてきましたが,現代の情報が溢れていて正解が一つでない課題が多いといった社会状況の中で,リテラシーとは活用する理解力といった意味で捉えられるようになりました。とりわけ学校教育では「特定の領域に関する知識や情報を理解し,それらを批判的に吟味し,状況に応じて適切に活用・判断・表現できる能力」というのがリテラシーについての基本的な考えになります。これを海洋リテラシーに即してみれば,「海洋に関する重要原理や基本概念を理解し,海洋について考え,表現することでコミュニケーションができ,海洋に関する十分な情報を集めて整理し,責任ある判断を下すことができる」と捉えられるでしょう。

竹富町の海洋教育

 竹富町では平成23(2011)年3月に日本で初めて「竹富町海洋教育基本計画」を策定し,海洋教育の充実に向けた様々な活動に取り組んできました。竹富町の海洋教育では,地域への理解を深め,誇りと郷土愛を大切にして,竹富町の一体感をつくることと,海(自然)と人が共生できる地域づくりに貢献できる子どもたちの育成に向けて,様々な活動が展開されています。

 記事で紹介した竹富小中学校では,きれいな海を守るためのビーチクリーン活動などの様子を紹介していますが,竹富町の他の学校でも,サンゴの産卵観察,マグローブの観察,刺し網体験など,様々な活動が展開されています。

●竹富町海洋教育基本計画(PDF)

https://www.kodomonokagaku.com/wp-content/uploads/2026/01/竹富町海洋教育基本計画(R5.6改訂)-1.pdf

 竹富町の海洋教育では,海に親しみ,海を知り,海を守り,海を活用する,といった4つの視点を基本とした学習を通して,海の自然や文化と人との共生に向けた人材育成を目材しています。

①海に親しむ

 身近な海の豊かな自然や文化,地域社会の中で様々な体験活動を通して,海に対する豊かな感性や海に対する関心等を培い,海の自然や文化に親しみ,進んで関わろうとする幼児・児童・生徒を育成する。

②海を知る

 海の自然や文化,資源,人との深い関わり等について関心を持ち,理解を深めるために進んで調べようとする幼児・児童・生徒を育成する。

③海を守る

 海の環境や文化について調べる活動や保全活動などの体験,伝統行事などへの参加を通して,その保全に主体的に関わろうとする幼児・児童・生徒を育成する。

④海を活用する

 身近な海と暮らし(衣食住,産業,交通,伝統文化など)の関わりや,海を通した世界の人々との結びつきについて学ぶことを通して,それらを持続的に活用しようとする幼児・児童・生徒を育成する。

 この4つの視点をもとに,竹富町の学校では地域とのつながりを大切にしながら,自然や歴史,伝統文化などへの理解を通して,竹富町民としての誇りと郷土愛を持ったり,地域に継承されてきた伝統文化(古謡,民話,祭事等)と海との関わりについて探究したり,島々の特色を生かした学習に取り組んでいます。

 また,自分の地域のみならず,他の島々への理解を広げて深めることために,年に1回「海洋教育サミット」をオンラインで開催しています。他校や他の島の学校と共に海洋教育を体験したり,学習したことを合同発表したりするなどの交流する機会を設けています。

 私(野原)が竹富小中学校で取材した時は,教室で児童・生徒の皆さんが「海洋教育サミット」に参加していました。そこでは,「近くの島なのに知らなかった」「竹富島と似ているね」など,自分の地域と比べながら発表を聞いている様子がありました。他の島々への理解が深まると共に,自分が住んでいる竹富島を見直す機会にもなっていることがうかがえました。

「海洋教育サミット」。年に1回、八重山諸島の各島の学校が参加し、海洋教育で学んだことを発表する。

理科教育と海洋教育

 学校では学習指導要領で示されている学習内容を授業で扱います。海洋教育に関しては主に社会科の学習内容と関連していますが,他教科との関連については明記されているとはいえません。しかし,理科教育と海洋教育は様々な関連があります。海洋教育は海に関する知識,価値観,行動力を育てる教育であり,その中核には自然科学に関する内容理解があるため,理科教育と本質的に重なっているのです。

 例えば,小学校4年生で水の三態変化を学習します。水は温度の変化に伴いながら,液体,気体,固体と姿を変えます。自然の中でも,雨が降り,土地に水が溜まり,水蒸気となってやがて雲ができる,と絶えず姿を変えています。こうした地球上の水の循環のもとは海の水と考えることができます。

 小学校6年生では生物と環境では,食べ物による生物の関係,いわゆる食物連鎖について学びます。食物連鎖は陸上で生息する生物で学習内容を整理する傾向がありますが,海洋教育を意識した理科授業であれば,水中の生物でも食物連鎖は見られることまで学習を発展させていくこともできます。

 他にも,流れる水の働きや天気の変化など,理科の学習内容は海洋に関する知識と結びつけて学習する内容が多いのですが,現行の学習指導要領では海洋に関する内容は,小学校では無く,中学校では「気象とその変化」という学習内容に一箇所あるだけです。しかし,戦後の学習指導要領,特に1951年の中学校では50,1952年の小学校では171,と 海洋に関する言葉が示されている一方で,1958年以降は中学校では激減し,小学校では記載は無くなったという報告もあります。

 しかしながら,現代の学校教育では海洋教育の有用性に注目が集まっています。海洋教育との関連という視点を理科教育に取り入れることは,これからの新しい理科授業を創造する可能性が広げていくのではないでしょうか。

 また,理科を学習する上で重要な「探究の過程」は,海洋教育で目指す海洋リテラシーの育成とも深い関わりがあります。海洋教育は,観察・実験,フィールドワークなどを通して,海に親しむ,海を知る,海を守る,海を活用する,という視点を大切にしています。これは,理科が重視している探究の過程を実践的に取り組む上でも重要な視点になります。海洋教育と理科教育の学び方には多くの重なりがあるのです。

(参考文献)

竹富町教育委員会.(2023).「竹富町海洋教育基本計画」

「海洋教育基本法」.(平成十九年法律第三十三号)

UNESCO Intergovernmental Oceanographic Commission .(2017) “Ocean Literacy for All A toolkit”

小国喜弘・東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター編著.(2019).「日本の海洋教育の原点(戦後)理科編」.一藝社.

日置光久監修.三井寿哉・嵩倉美帆・小熊幸子・公益財団法人笹川平和財団海洋政策研究所.(2025).「海洋教育指導資料 小学校理科 理科の学びを海につなぐ」.大日本図書.

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